吾輩は猫である。名はまだない。 飼い主が、見慣れぬ袋を取り出した。それは、普段のおやつよりも、少しだけ“本気”の匂いがする。 ――怪しい。 「これ、好きでしょ?」そう言って差し出されたそれは、柔らかく、温度もよく、触れた瞬間にこちらの警戒心を溶かしにかかってきた。 吾輩は一歩、距離を取った。学習している。最近の食べ物には、裏がある。 だが、嗅覚が告げる。これは、かなり良い。 飼い主は静かだ。急がない。追いかけない。ただ、そこに置く。――ずるい。 吾輩は思案した。これは罠か。それとも、条件付きの和平交渉か。 ...