吾輩は猫である。名はまだない。だが、暑さの記憶は忘れない。 あの日、真夏の午後。アスファルトが溶けそうな陽射しの中、マンションの駐車場に、ひとつの車が止まっていた。 窓は閉め切られ、エンジンも、風も、ない。 中には、小さな犬。舌を出して、はぁはぁと苦しげに鳴いていた。「誰か来て…」そんな声が、吾輩には聞こえた。 吾輩は影から、じっと見ていた。飼い主らしき者は、日傘を差して建物の中に消えていた。 命より 手間が惜しいか この炎 吾輩は自由な存在だ。だが、自由であることと、誰かの命を預かることの重さは、知って ...