吾輩は猫である。名前はまだない。 街が、急に騒がしくなった。壁という壁に顔が貼られ、声という声が、少しずつ大きくなる。 人間はこれを、総選挙と呼ぶらしい。 皆、前へ出たがる。真ん中に立ちたがる。センターとは、光の集まる場所だと信じているのだ。 約束は多く、言葉は軽く、語尾はやけに断定的である。未来は、もう決まったかのように語られる。 吾輩は、少し離れた場所でそれを見ている。争っているのは、立ち位置であって、責任ではないように思えたからだ。 本来、中心とは、声を張る場所ではない。周囲が動いても、揺れぬ点であ ...