吾輩は猫である。名はもう、呼ばれなくなった。この夏、初めてのお盆を迎えた。 線香の香りと、精霊馬。仏間に飾られた、吾輩の写真。飼い主が小さな声で言った。 「帰ってきてるかな、あの子……」 帰っているとも。ここに、ちゃんと。 けれど、姿は見えないし、声も届かない。ただ、思い出の隙間にそっと潜りこむ。ふみふみしていた座布団の上、のぞいていた冷蔵庫の下、こっそり登って怒られた棚の上。 そこに、吾輩はいた。 初盆や 気配で帰る ひとときに 飼い主は猫じゃらしを手にして、ふと動きを止めた。「もう、これを振る相手もい ...