吾輩は猫である。名はまだない。だが街角の雑踏のなか、あの赤いベストを着た人間のそばにいることが多い。 彼は駅前の片隅に立ち、「ビッグイシューいかがですか」と声を出す。その声は風に消えそうで、しかし芯がある。新聞ではない。広告でもない。彼自身が“誌面と共に立っている”のだ。 最初、吾輩はその人の足元が温かかったので、ただ眠りに来ていた。だがある日、彼が小声でこう言ったのを聞いた。「これを売るのは、俺の名刺みたいなもんだ」 なるほど。この薄い一冊に、自分の存在を刷り込んでいるのだ。 人は時に、職を失い、家を失 ...