吾輩は猫である。名前はまだない。 朝の部屋に、苦い香りが立つ。湯が落ち、音は小さく、空気だけが変わる。 人間はこれを、珈琲と呼ぶ。 黒い液体に、多くを求める。目を覚まし、気持ちを整え、一日を始めるための儀式らしい。 吾輩は、少し距離を取る。香りは良いが、味は知らぬ。だが、その時間の静けさは知っている。 淹れるという行為は、急がぬ。量り、注ぎ、待つ。その一つ一つが、整える動きだ。 人間は、忙しいほど丁寧に淹れる。逆のようでいて、理にかなっている。 苦味とは、嫌われるものではない。輪郭を作り、余韻を残す。甘さ ...