吾輩は猫である。
名前はまだない。
冷えた朝、
車は静かに並ぶ。
だがその中に、
わずかな温もりがある。
ボンネットの上、
あるいはその内側。
猫は、
暖を知っている。
人間は、
急ぐ。
鍵を押し、
そのまま動かそうとする。
だが、
ほんの一瞬、
立ち止まるだけで、
変わる未来がある。
「いるかもしれない」
その想像が、
行動を変える。
軽く叩く。
周りを覗く。
そして、
ボンネットをあける。
見えぬ場所に、
命は潜む。
確認することは、
手間ではない。
責任である。
吾輩は思う。
優しさとは、
見えているものではなく、
見えていないものへ向く力だと。
猫は、
そこにいるかもしれぬ。
いないかもしれぬ。
だが、
確かめることに、
損はない。
ほんの一手が、
守る。
吾輩は猫である。
そこにいることもある。
だからこそ願う。
気づいてほしいと。
叩いてほしい。
そして、
あけてほしいと。
一手間で
見えぬ命を
守りけり