【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―車でフェリー 編―

2026年6月19日

吾輩は猫である ―車でフェリー 編―

吾輩は猫である。
名前はまだない。

車ごと、
海へ入っていく。
正確には、
船の中へ入るのだが、
最初は少し驚く。

人間はこれを、
フェリーと呼ぶ。

走っていたはずなのに、
急に止まる。
だが、
移動は続いている。

不思議な感覚だ。

吾輩は、
まず様子を見る。
音、
振動、
揺れ。
いつもの車と、
少し違う。

だが、
エンジンは止まり、
空気は静かになる。

それは、
悪くない。

高速道路のように、
常に気を張る感じもない。
景色はゆっくり流れ、
時間も少し遅くなる。

吾輩は思う。
フェリーとは、
「急がぬ移動」なのだと。

速さではなく、
揺られながら進む。
その間に、
気持ちも整う。

猫にとって大事なのは、
安心できる場所があることだ。
慣れた毛布、
匂いのついた座席、
静かな声。

それがあれば、
案外落ち着く。

だが、
油断は禁物である。
暑さ、
換気、
逃走。
気を配ることは多い。

人間は、
目的地を急ぐ。
だが、
移動そのものを
楽しむ道もある。

吾輩は猫である。
海は渡らぬ。
だが、
揺れながら進む心地よさは知っている。
フェリーとは、
「止まりながら進む」
不思議な旅なのだ。


揺られつつ
止まって進む
海の道


  • この記事を書いた人

gonta

-【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編