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吾輩は猫である(現代編)

2025/11/23

吾輩は猫である ―猫の口述試験 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今日、吾輩は試験会場なる場所に連れてこられた。どうやら「口述試験」なる難関に挑むらしい。――なぜ猫が?と聞きたいが、飼い主曰く「君ならできる」。根拠のない自信ほど恐ろしいものはない。 静かな部屋に案内され、試験官が三名、真剣な顔で座っている。「それでは、あなたの経験を聞かせてください」吾輩は思った。――経験とは、窓辺で日向ぼっこした回数のことか? まず聞かれたのは、「あなたが普段、どのようにリスクを管理していますか?」吾輩は胸を張って答えた。「見知らぬ紙袋には近づかない。窓 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/23

吾輩は猫である ―猫の爪切り 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今日も、家のどこかで“パチン”という音がした。これは恐怖の合図である。飼い主が爪切りを手に吾輩を探しているのだ。 吾輩はソファの下にすばやく潜り込む。ここは安全地帯。しかし、飼い主は甘くない。「そんなところに隠れたって、すぐ終わるよ〜」その声がやさしいほど、逆に怖いのだ。 ついに捕まった吾輩は、膝の上で“武装解除”されるように抱えられる。前足をそっと持ち上げられ、爪先が光に照らされる。飼い主が言う。「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるからね」 パチン。ひとつ音が響く。――痛くはない ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/23

吾輩は猫である ―猫と風呂 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある晩、飼い主が風呂場で歌をうたいながら湯を張っていた。「いい湯だな〜♪」湯気は白く、空気はほかほかしている。吾輩はその様子を戸口から観察していた。――風呂とは、人間がわざわざ温かい水に沈む奇妙な儀式である。 と、飼い主がこちらを見て言った。「一緒にあったまる?」冗談だと思ったが、次の瞬間、吾輩は抱き上げられ、湯船の上で“ぷらん”と宙に浮いた。 「ひっ!?」もちろん吾輩は全力で拒否した。足をばたつかせ、しっぽは膨らみ、魂の奥から「無理である!」という声が湧き上がった。 飼い ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/23

吾輩は猫である ―猫と火災 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 その夜は、いつもより暖房の匂いが濃かった。飼い主が鍋を火にかけたまま、うとうとしてしまったのだろう。 最初に気づいたのは吾輩だった。鼻の奥を刺すような焦げ臭さ。部屋の隅で揺れるオレンジの影。――炎である。 吾輩は飼い主の布団に飛び乗り、顔を前足で叩くようにして起こした。「ん……どうしたの?」次の瞬間、飼い主も火の気配に気づき、目が一気に覚めた。 「火事だ!」その声は震えていた。だが、動きは素早かった。窓を開け、ブレーカーを落とし、吾輩をキャリーに入れて逃げ道を確保する。 外 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/23

吾輩は猫である ―猫 海に戻る 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 久しぶりに、潮の匂いが鼻に触れた。遠くで波が砕け、海鳥の声が空を横切っていく。この場所は、吾輩が生まれた“海沿いの町”。風は昔のことを全部覚えているようだ。 飼い主と暮らす都会の生活はにぎやかで、窓から見える景色も常に変わる。だが、心のどこかでいつも、この波の音だけは特別な響きを持っていた。 砂浜に足を下ろすと、ひんやりとした粒のひとつひとつがまるで「おかえり」と言っているようだった。潮風が毛並みをゆらし、吾輩はゆっくりと目を閉じた。 かつて、ここで母猫と並んで見た夕日。幼 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/22

吾輩は猫である ―いい夫婦―

吾輩は猫である。名はまだない。 家の中には二人の声がある。朝はトーストの香り、夜は湯気の立つ味噌汁。同じ屋根の下、同じ時間をゆっくりと分け合って生きる――それが、この家の“いい夫婦”という姿らしい。 喧嘩もする。飼い主の片方がむすっとして、もう片方が黙って洗い物をしていることもある。吾輩はその間をそっと歩き、気まずい空気を毛づくろいの音でほぐす。やがてどちらかが、「ごめん」と小さく呟く。それで終わる。 互いに譲り合うでもなく、かといって離れすぎることもない。ふたりの距離は、こたつの中で足が触れたときのよう ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/22

吾輩は猫である ―猫2世 編―

吾輩は猫である。名はまだない。けれど、飼い主はときどきこう呼ぶ。「○○の二世」――どうやらこの家には、かつて“初代吾輩”がいたらしい。 押入れの奥には、小さな首輪と古い写真。そこには、自分によく似た猫が写っていた。まっすぐな目つき、少し曲がったしっぽ。吾輩はその姿に、なぜか懐かしさを覚えた。 飼い主が言う。「この子も、あの子と同じように日なたが好きなんだね。」吾輩はごろりと寝転び、その言葉の意味を考えた。――生まれ変わるとは、ただ姿を変えて続くことかもしれぬ。 夜、飼い主が写真を見ながら微笑んだ。「また会 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ―結婚記念日 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今夜の食卓は、いつもと違う香りがした。テーブルには花、グラスにはワイン。飼い主たちは少し照れくさそうに笑っている。「今日で十年目だね」――どうやら結婚記念日らしい。 吾輩はその足元に座り、静かにしっぽを揺らした。十年という歳月。人にとっては長いかもしれぬが、猫にとっては、いくつもの春と冬を重ねるほどの時だ。 思い返せば、喧嘩もあった。泣き声の夜も、笑い声の朝も。だが、どんなときも二人は同じ家に戻り、同じカップでお茶を飲んでいた。それが、愛というものなのだろう。 飼い主が吾輩 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 猫のマーキング 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この世界には、目に見えぬ境界がある。それを人は「敷地」と呼び、吾輩は「縄張り」と呼ぶ。違うのは名前だけで、意味はそう変わらぬ。 吾輩は今日も、庭の石灯籠の前でしっぽを立てる。これは単なる生理現象ではない。――生きている証である。 飼い主は困った顔をして言う。「またやったの? ダメよ」ふむ、分かってはいる。だが吾輩としても、この家が“吾輩の城”であることを、風に知らせねばならぬのだ。 夜の風に混じるのは、他の猫たちのメッセージ。「ここは通り道」「ここは恋の季節」そんな暗号が、 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ―職域団体対抗将棋大会3位 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 日曜の朝、飼い主はスーツに身を包み、黒い将棋バッグを抱えて出かけていった。「今日は職域対抗戦、団体戦だ」と言い残し、やけに凛々しい背中である。 吾輩は窓辺に座り、その帰りをじっと待った。夕方、玄関のドアが開く音――飼い主の顔は、疲れているのにどこか誇らしい。 「3位だったよ」その声には、勝ち負けを超えた余韻があった。手の中の記念楯が、夕陽を反射して光っていた。 夜、飼い主は対局の再現を始めた。「この一手、△8四歩が勝負だったな」吾輩は将棋盤の端に座り、駒の音を子守唄のように ...