gonta

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ミッション・インポッシブル(猫)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今夜ばかりは、コードネーム「シャドウ」。任務はただ一つ――飼い主の焼き魚を、無傷で確保せよ。 作戦開始は、21時12分。飼い主が風呂へ突入したタイミングを見計らい、吾輩は静かに着地音ゼロで台所へ侵入。 障害①:キッチンの腰高カウンター。滑る。高い。だがキャットタワーで鍛えた跳躍力で無音突破。 障害②:焦げた秋刀魚から発せられる匂い。強すぎる…!鼻を鳴らせば位置がバレる。ここは平常心、深呼吸。 だが最大の難関は、あの“赤外線センサー”――そう、見張り役のルンバである。夜間モ ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ふみふみ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、飼い主のブランケットを見れば、ふみたくなる衝動がこみあげてくる。 ふみふみ。前足を交互に出して、ぎゅっ、ぎゅっ。毛布が柔らかいと、つい本能が目を覚ます。 飼い主は言う。「出た、“ふみふみ”タイムね。赤ちゃんみたい」笑われようとも、これは吾輩の無言の祈りである。 あたたかい場所、やわらかな匂い、母の胸を探すような仕草。 ――けれど、今この瞬間、吾輩がふみふみしているのは、飼い主のひざの上だ。 忘れても 本能だけが 覚えてる ふみふみは甘えだけじゃない。信頼の証であり、安心 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/1

吾輩は猫である ― 会社が好きすぎる猫編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが「社ネコ」と呼ばれている(らしい)。 きっかけはテレワーク。飼い主が毎日パソコンを開き、電話に出たり、「MTG入ります」とか言って静かになったり。その横にぴたりと寄り添うのが、吾輩の日課だった。 会議中に顔を出せば「かわいいですね」と評判になり、画面越しに“社員証つけて”という声もあった。まさに吾輩、社風の一部と化していたのである。 だがある日、飼い主が言った。「明日からは出社よ。会社、行ってきます」 ……なぬ?吾輩はどうなる?職場の椅子も、デスクのにおいも知らぬまま、置 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/1

吾輩は猫である ― 七夕、年に一度の再会編―

吾輩は猫である。名はもう覚えている。あの人が呼ぶ、やわらかな声の響きとともに、毎年よみがえるのだ。 今夜は七月七日。年に一度だけ、あの人が帰ってくる。遠くの国で働いているらしく、普段は画面の中にしかいない。 飼い主の母が言った。「今日は七夕ね、あの子もそろそろ来る時間よ」 玄関の音に耳を澄ませ、吾輩はいつもと違う毛づくろいをする。鼻先からしっぽの先まで、丁寧に。 そして、開く扉。「ただいま」 その声に、全身の毛がふわりと立つ。吾輩は忘れていないのだ。一年のうち、この一瞬のために生きているような時間を。 飼 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/29

吾輩は猫である ― エアコンクリーニング編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家で、一番風の流れに敏感な存在である。 いつもの場所で昼寝をしていると、突然、天井の機械が異音を立てた。「ぶおっ…」「ギギギ…」――これは異常だ。さっそく吾輩は監視体勢に入る。 数時間後、マスクと脚立を携えた男たちがやってきた。飼い主が言う。「エアコンクリーニング、頼んだのよ」 なるほど。風の出処に人間が群がっているのはそのためか。 脚立の上で、パネルを外し、奥の部品を洗う。黒い水が流れ落ちる様子を見て、吾輩は悟った。この涼しさの裏に、これだけの汚れが潜んでいたのか― ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/29

吾輩は猫である ― 長毛ヘアカット篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、毛はある――ふさふさと、たっぷりと。 世に長毛種と呼ばれる猫の中でも、吾輩は誇り高き“モフ界”の住人である。冬場は暖かく、写真映えは抜群、撫でられれば「高級ラグ」とまで言われたこともある。 しかし――夏が来た。毛玉が増え、蒸れてかゆい。飼い主の目が、日に日に“覚悟”の色を帯びてゆく。 「ちょっと切ろうか。ね、少しだけ」――その“少し”が、信用ならないのだ。 いざペットサロンへ。バリカンの音、スタッフの笑顔、そして…毛、毛、毛!床には吾輩の毛が、まるで冬の終わりの雪解けの ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/29

吾輩は猫である ― ヘアカット若返り編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、飼い主の“頭の色”が急に変わったことには気づいた。 「どや、若返ったやろ?」そう言って、椅子の前でくるくる回る。確かに、もっさりしていた髪はキリリと短くなり、色も以前よりツヤがある。なるほど、人間は毛の手入れで年齢を逆行できるらしい。 今回の仕上げは、例の店――QBハウスとのこと。15分1400円、予約不要。人間にとっては簡潔で便利、だが猫にとっては秒速で毛が減る魔窟である。 「染めは別のところでやったけどな」との補足。二段構えの若返り作戦、抜かりなし。 吾輩はじっと見 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/29

吾輩は猫である ― 浅草(将棋団体戦)篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日は、少しだけ“甘い日”であった。 朝から飼い主が落ち着かない。スーツではないが、どこか勝負服のような服装。将棋盤を持ち、扇子を忍ばせ、「社会人団体戦、行ってきます」と玄関を出ていった。 団体戦とは、棋力の勝負であるだけでなく、仲間と組んで、勝ち負けを分け合う日らしい。猫には仲間はいないが、“盤の上の絆”というやつは、なんだか粋である。 夕方、少し疲れた顔で戻った飼い主が、手にしていたのは――豆腐アイス。 白く、やさしい冷たさ。勝負の火照りをそっと包むような味。「今日は ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/27

吾輩は猫である ― 梅雨の紫陽花編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。このところ、空は泣き続けている。庭の土はぬかるみ、窓辺の景色もどんより霞んでいる。 「また雨か…」と、飼い主がぼやくたび、吾輩はそっと窓辺に座る。この季節を嫌ってばかりでは、もったいない。 なぜなら、紫陽花が咲くのは、こういう日々の中だからだ。 赤でもない、青でもない。紫陽花は、どんな色にも染まる。雨に濡れて、重たそうに揺れて、それでも、黙って咲いている。 人間も猫も、晴れた日ばかりでは生きていけぬ。むしろ、心が湿る日こそ、見えるものがある。 飼い主が言った。「今日は猫が静か ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/6/25

吾輩は猫である ― ボディポジティブ篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが最近、飼い主が鏡の前でうなっている。 「太ったかも」「二の腕が…」「映えない…」 スマホを手にしては、誰かの投稿と自分を比べ、ヨガ動画を見ながら、溜息をつく。 その横で、吾輩は堂々と寝そべる。ぽってりお腹? 結構じゃないか。しっぽが太い? 冬毛である。足が短い? それが吾輩の“型”である。 猫は、比べない。削らない。憧れない。 あるがままの体を、その日の陽だまりに預けるだけだ。 そもそも、吾輩の兄弟には痩せ型もいれば、ふくよかなのもいる。だが、誰も「その体ではモテない」な ...