吾輩は猫である ―猫探偵 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 何かが、なくなった。 人間は慌てる。 鍵がない。 書類がない。 昨日ここに置いたはずの物が、見当たらない。 人間はこれを、事件と呼ぶ。 吾輩は思う。 事件とは、大げさなものばかりではないと。 少しの違和感。 いつもと違う匂い。 動かした覚えのない物。 誰かの足音。 そこに、手がかりはある。 猫は、よく見る。 音を聞き、匂いを嗅ぎ、少し離れて様子をうかがう。 すぐには飛びつかぬ。 思い込みほど、捜査を曇らせるものはない。 人間は、「きっとここだ」と決めつける。 だが、本当に ...
吾輩は猫である ―日々研鑽 編(資格の更新必要にゃ?)―
吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、試験に合格すると喜ぶ。 証書を眺め、資格名を名刺に書き、少しだけ胸を張る。 そして、しばらくすると言う。 「これ、更新って必要なの?」 吾輩は思う。 ずいぶん現実的な質問である。 資格には、更新が必要なものもあれば、一度取ればそのままのものもある。 だが、知識まで永久保証される資格は、たぶんない。 技術は変わる。 法律も変わる。 社会も変わる。 昨日の常識が、明日には古くなることもある。 ならば、資格証だけ残っていても、中身が昔のままでは少し寂しい。 人間はこれを ...
吾輩は猫である ―猫インプラント 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、歯を失っても、また噛めるようにしようとする。 なかなか諦めが悪い。 人間はこれを、インプラントと呼ぶ。 歯がなくなった場所に、新しい土台をつくり、その上に歯を置く。 なるほど。 失ったものを、別の方法で補うらしい。 吾輩は思う。 技術とは、元に戻すことではない。 失った後でも、暮らしを続けられるようにすることだ。 噛む。 食べる。 笑う。 毎日当たり前にしていることほど、できなくなった時に、その大切さが分かる。 だが、入れたら終わりではない。 人間は、そこを忘れが ...
吾輩は猫である ―不動産セミナー 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 休日になると、人間は集まる。 駅前の会議室。 ホテルの一室。 そこには、「未来」という文字が並んでいる。 人間はこれを、不動産セミナーと呼ぶ。 家賃収入。 節税。 資産形成。 夢のような言葉が、次々と並ぶ。 吾輩は思う。 良い話ほど、静かに聞くべきだと。 「必ず儲かる。」 「今だけです。」 「皆さん始めています。」 そんな言葉ほど、一歩引いて眺める。 猫は、知らない餌には飛びつかぬ。 匂いを嗅ぎ、様子を見て、安全を確かめる。 それから、ようやく口をつける。 人間は、利益ば ...
吾輩は猫である ―お腹すいたアピール 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 夕方になると、人間の前を横切る。 一度ではない。 二度。三度。 そして、皿の前に座る。 人間はこれを、お腹すいたアピールと呼ぶ。 吾輩は思う。 言葉がなくても、伝える方法はいくらでもあると。 皿を見る。 人間を見る。 もう一度、皿を見る。 これだけで、だいたい通じる。 それでも足りなければ、少し鳴く。 さらに足りなければ、足元を歩く。 最後は、静かに圧をかける。 猫は、説明しすぎぬ。 だが、必要なことは伝える。 人間は、時に遠慮する。 頼みたいのに、頼まない。 困っている ...
吾輩は猫である ―自動パーキング 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 車が、勝手に動き始める。 ハンドルが回り、ブレーキが入り、するすると枠の中へ収まっていく。 人間はこれを、自動パーキングと呼ぶ。 なるほど。 便利である。 狭い駐車場。 見えにくい白線。 何度も切り返したくなる場所。 そんな時でも、機械は淡々と判断する。 吾輩は思う。 人間は、つい手を離したくなるのだろうと。 「車がやってくれる。」 「センサーが見ている。」 「きっと大丈夫。」 だが、駐車場には、予定通りに動かぬものもいる。 子供。 自転車。 買い物カート。 そして、吾輩 ...
吾輩は猫である ―ルンバ階段から落ちる 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 床の上を、丸いものが動いている。 音もなく、いや、少し音を立てながら、部屋の隅々まで進んでいく。 人間はこれを、ルンバと呼ぶ。 実に働き者である。 吾輩が寝ていても、人間が出かけていても、黙々と床を掃除する。 猫の毛も、埃も、食べこぼしも、容赦なく吸い込む。 吾輩は思う。 便利とは、こういうものなのだろうと。 だが、ある日。 ルンバは、階段の方へ向かった。 人間は言う。 「そこは大丈夫だろう。」 機械には、落ちないための仕組みがあるらしい。 なるほど。 吾輩も少し安心する ...
吾輩は猫である ―猫信託 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、自分より先に、猫が旅立つと思っている。 だが、人生とは、思い通りにはならぬ。 もし、人間の方が先だったら。 残された猫は、誰が守るのだろう。 人間はこれを、猫信託と呼ぶ。 お金だけではない。 誰が世話をするのか。 どこで暮らすのか。 病気になったら。 最後まで、安心して生きられるのか。 その約束を、元気なうちに決めておく仕組みである。 吾輩は思う。 愛情とは、今だけ可愛がることではない。 自分がいなくなった後まで、考えることでもある。 猫は、明日の心配はしない。 ...
吾輩は猫である ―猫、夏にへたる 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 暑い。 それしか、言葉が出ぬ。 朝から床に伸び、昼には動かず、夜になって、ようやく少し元気になる。 人間はこれを、「へたってるね」と言う。 その通りである。 猫は、無駄な体力を使わぬ。 暑ければ、寝る。 涼しい場所へ移る。 水を飲む。 それが、夏を生き抜く知恵である。 吾輩は思う。 頑張ることは、いつでも正しいわけではない。 暑い日に、無理をする。 眠いのに、休まない。 疲れているのに、「まだ大丈夫」と言う。 それは、賢さではない。 猫は、自然には逆らわぬ。 暑さには、暑 ...
吾輩は猫である ―ブルーラジカル 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、歯を磨く。 朝も、夜も、毎日続ける。 それでも、歯周病は忍び寄るらしい。 最近、「ブルーラジカル」という言葉を、耳にするようになった。 新しい治療法として、期待されているそうだ。 吾輩は思う。 医療とは、魔法ではない。 新しい技術が生まれるたび、「これで全部治る」と期待したくなる。 だが、本当に大切なのは、毎日の積み重ねである。 歯を磨く。 定期的に診てもらう。 異変があれば、早めに相談する。 その上で、新しい技術が力を発揮する。 猫も、毛づくろいを欠かさぬ。 毎 ...









