gonta

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日は、いつもと違う場所にいる。床が揺れ、景色が流れ、匂いが次々と変わる。 人間はこれを、ドライブと呼ぶ。 猫にとって、移動は目的ではない。場所が変わること自体が、一つの出来事だ。 最初は落ち着かぬ。音も、振動も、予測がつかない。だが、しばらくすると、リズムが見えてくる。 一定の速さ、一定の揺れ。それがわかれば、少し安心する。 窓の外には、知らぬ景色。通り過ぎるだけで、手は届かぬ。それでも、見ていると飽きぬ。 人間は、目的地を決める。時間を読み、道を選ぶ。 猫は、今を見る ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―ドライブレコーダ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 車の前に、小さな目が付いた。黒く、黙って、ただ前を見ている。 人間はこれを、ドライブレコーダと呼ぶ。 走るたびに、すべてを記録する。良いことも、そうでないことも、等しく残す。 忘れぬための装置だ。 人は、記憶に頼る。だが記憶は、都合よく変わる。少し丸くなり、少し角が取れる。 機械は違う。そのままを残す。解釈も、感情も、持たぬ。 吾輩は思う。記録とは、正しさのためだけではない。振り返るためにあるのだと。 急いだ瞬間、迷った交差点、ためらった一秒。それらは、後から意味を持つ。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫BBQ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 外が、やけに良い匂いだ。煙が上がり、人間の動きが少し陽気になる。 人間はこれを、BBQと呼ぶ。 肉が焼け、音が弾け、会話が増える。火の前では、人は少し素直になるらしい。 吾輩は、少し距離を取って座る。近づけば熱い。遠すぎれば届かぬ。このあたりが、ちょうどよい。 肉は魅力的だ。だが、焦げた匂いと塩の気配が強い。猫は、素材を好む。 人間は、焼きすぎる。だがそれも、楽しみの一つなのだろう。 役割が分かれる。焼く者、食べる者、片付ける者。火を囲むと、自然に配置が決まる。 吾輩は、 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―まいやんカレンダ2026 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 壁に、新しい暦が掛けられた。紙はまだ固く、折り目も新しい。 人間はそれを、まいやんカレンダ2026と呼ぶ。 月が変わるごとに、ページがめくられる。同じ人でありながら、同じではない表情。 時間とは、進むだけでなく、重なるものらしい。 人間は、予定を書き込み、日付に意味を与える。だが、カレンダそのものは、ただ静かに日々を並べている。 美しさとは、変わらぬことではない。変わりながら、整っていることだ。 猫は、暦を持たぬ。だが、朝の光と、夜の気配で、日を知る。 それでも、一枚の紙 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫シェアハウス編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、家の中に猫が増えた。理由は知らぬ。だが、皿は増え、寝床も増えた。 人間はこれを、シェアハウスと呼ぶらしい。 猫は、群れぬ。だが、共にいることはある。 距離を保ち、場所を分け、干渉しすぎぬ。それで、だいたいうまくいく。 窓辺は人気だ。日当たりは、早い者勝ち。だが、長く居座ると、無言の圧が来る。 皿の順番、水の場所、寝る位置。すべてに、言葉なきルールがある。 破れば、空気が変わる。守れば、何も起きない。 何も起きないことが、最も良い状態である。 人間は、仲良くすることを ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/16

吾輩は猫である ―戦争下の猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 街の音が、少し違う。遠くで低く響き、近くでは人の声が減る。 人間はこれを、戦争と呼ぶ。 昨日まで開いていた店は、半分閉じ、灯りは早く消える。空を見上げる時間が、増えた。 猫は、理由を知らぬ。国も、思想も、境界線も持たない。 それでも、変化はわかる。 餌は減り、足音は急ぎ、人の目には余裕がない。 猫は、静かに場所を変える。危うい通りを避け、安全な影を選ぶ。生き延びるとは、正しさよりも柔らかさである。 人は戦い、勝敗を語る。だが、瓦礫の上ではどちらの足跡も同じだ。 夜になると ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/9

吾輩は猫である ―AIトレーダー 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、画面が増えた。数字が流れ、線が上下し、人間の眉が動く。 人間はこれを、トレードと呼ぶ。 最近は、人が考える前に、機械が考えるらしい。AIトレーダーという賢い仕組みだ。 市場は速い。一瞬で変わり、一瞬で消える。人の感情より、機械の計算が速い。 だが、数字の裏には、人がいる。 恐れ、欲し、迷い、期待する。その揺れが、値段になる。 AIは、それを学ぶ。過去を読み、確率を積み、最も合理的な一手を選ぶ。 囲碁のように、先を読む。だが、市場は盤面ではない。人の気分が、時々石 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/9

吾輩は猫である ―春分の日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 朝の光が、少し長くなった。窓辺の温度が、昨日より柔らかい。 人間はこの日を、春分の日と呼ぶ。 昼と夜が、同じ長さになるらしい。光と影が、一度だけ釣り合う日だ。 猫にとって、それはなかなか良い日である。 長すぎる夜も、短すぎる昼も、どちらも少し疲れる。 均衡とは、心地よいものだ。 人間はこの日、祖先を思い、季節の境目を感じ、静かに手を合わせる。 冬は去り、春が来る。それは急がず、しかし確実に進む。 庭の空気も、風の匂いも、ほんの少し変わった。 吾輩は、窓辺で丸くなる。陽は柔 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/9

吾輩は猫である ―トリミング 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日は、少し様子が違う。ブラシが出て、ハサミが光り、人間の動きが妙に慎重だ。 どうやら、トリミングらしい。 猫は本来、自分で整える。毛づくろいという立派な技を持っている。 だが、人間は時々手を出したくなるらしい。 ブラシが入る。毛がふわりと舞う。嫌ではない。だが、好みでもない。 整えるとは、難しいものだ。 やりすぎれば、不自然になる。足りなければ、手入れにならぬ。 人間は、毛の量を見て、形を見て、慎重にハサミを入れる。 その姿は、少しだけ庭師に似ている。 自然を整えるのは ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/9

吾輩は猫である ―囲碁 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、碁盤が置かれる。黒と白の石が、静かに並ぶ。 音は、「コツ」と一つ。それだけで、空気が変わる。 人間はこれを、囲碁と呼ぶ。 将棋のように、駒は動かぬ。取り合いはあるが、戦いというより陣取りである。 吾輩は、盤の横に座る。黒石は夜の色、白石は昼の色。どちらも、丸い。 丸いものは、転がしたくなる。だが、今日は触らぬ。人間が妙に真剣だからだ。 囲碁とは、奪う遊びではない。広げる遊びだ。 相手を消すより、自分の地を整える。急がず、焦らず、盤はゆっくり埋まっていく。 一手の ...