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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―山の日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 山は、静かである。 風の音。 鳥の声。 木々が揺れる音だけが、ゆっくりと時を刻む。 人間は、この日を山の日と呼ぶ。 山に親しみ、その恵みに感謝する日。 だが、山にはもう一つの記憶がある。 忘れてはならない、深い悲しみの記憶である。 ある夏の日。 多くの人が、家族のもとへ帰る途中だった。 楽しみにしていた再会。 約束していた「またね」。 その願いは、山へ消えた。 吾輩は思う。 時は、悲しみを消してはくれない。 それでも、人は生きていく。 残された人は、大切な人を想いながら、 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/2

吾輩は猫である ―猫シェアハウス 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 一つ屋根の下に、何匹もの猫が暮らしている。 朝になれば、それぞれが好きな場所へ向かう。 窓辺。 ソファ。 キャットタワー。 人間の膝。 誰も、同じ場所ばかり選ばぬ。 人間はこれを、シェアハウスと呼ぶ。 「みんな仲良しですね。」 そう言われることもある。 いや、少し違う。 仲が良い日もある。 少し距離を置きたい日もある。 猫は、無理をしない。 吾輩は思う。 一緒に暮らすとは、同じことをすることではない。 互いの距離を知ることだ。 眠りたい者は眠る。 遊びたい者は遊ぶ。 一匹 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―酷暑日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 朝から、空気が重い。 陽が昇ったばかりだというのに、地面はすでに熱を持ち、窓辺にも逃げ場がない。 人間はこれを、酷暑日と呼ぶ。 暑いという言葉だけでは、足りないらしい。 少し歩くだけで、汗が流れる。 車の中は、あっという間に熱くなる。 道路も、屋根も、室外機の風も、街全体を温めていく。 吾輩は思う。 こういう日は、我慢してはならぬ。 猫は、暑ければ動かない。 涼しい床を探し、日陰へ移り、水を飲み、体力を使わぬ。 それは、怠けではない。 命を守るための、正しい判断である。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―日本人1.2億人割れ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間の数が、また一つの境を越えたらしい。 一億二千万人。 それを下回ったと、人間は数字を見つめている。 出生数。死亡数。高齢化。人口減少。 難しい言葉が並ぶが、要するに、生まれる者より、去っていく者が多いということだ。 吾輩は思う。 人が減るとは、数字が小さくなることだけではない。 学校から、子供の声が減る。 商店街から、店の明かりが消える。 バスの本数が減り、病院や介護を支える者も少なくなる。 一人減るたびに、その人が担っていた役割も、少しずつ失われていく。 人間は、子 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―消費税1% 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 一という数字は、小さく見える。 百円の買い物なら、わずか一円。 人間はこれを、消費税一%と呼ぶ。 一円くらいなら、大したことはない。 そう思う者もいる。 だが、毎日の食事、衣服、日用品。 買うたびに重なれば、一%も、小さくはない。 吾輩は思う。 数字の重さは、見る場所によって変わると。 一つの家計から見れば、暮らしを左右する差になる。 国全体から見れば、大きな財源にもなる。 下げれば、買い物の負担は軽くなる。 だが、減った分を、どこから補うのかという問いが残る。 上げれば ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/2

吾輩は猫である ―原爆の日 編(核の傘の下で)―

吾輩は猫である。名前はまだない。 八月六日の朝、広島では、空を見上げる時間がある。 午前八時十五分。 いつもなら、人が働き始め、子供が笑い、猫が日陰を探し始める頃である。 だが、八十一年前のその朝、一つの爆弾が、街の日常を奪った。 三日後には、長崎にも落とされた。 人間はこれを、原子爆弾と呼ぶ。 ずいぶん科学的で、整った名前である。 だが、起きたことは、少しも整ってはいなかった。 家が焼けた。 人が焼けた。 昨日まで交わしていた約束が、突然、行き先を失った。 それでも人間は、核兵器を手放せずにいる。 アメ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―夏季休暇 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 朝になっても、人間が出かけない。 目覚ましは鳴らず、鞄も持たず、いつまでも家の中を歩いている。 人間はこれを、夏季休暇と呼ぶ。 働くことを休み、心と体を整えるための時間らしい。 だが、休みだからといって、人間はじっとしていない。 旅行へ行く。買い物へ行く。予定を詰める。渋滞にも並ぶ。 休むために、ずいぶん忙しそうである。 吾輩は思う。 休暇とは、普段できないことをすべて行う日ではない。 何もしなくてもよいと、自分に許す時間ではないかと。 昼まで眠る。 冷たい飲み物を口にす ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―ハシビロコウ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 水辺に、一羽の大きな鳥が立っている。 ほとんど動かず、遠くを見つめたまま、時間だけが過ぎていく。 人間はこれを、ハシビロコウと呼ぶ。 あまりに動かぬため、何もしていないように見える。 だが実際には、魚を捕らえる機会を逃さぬよう、静かに待ち続けているらしい。 吾輩は思う。 待つことと、動けないことは違う。 動けない者は、機会が来ても動けぬ。 待っている者は、その瞬間のために、力を残している。 人間は、動いていなければ不安になる。 忙しく歩き、言葉を重ね、何かをしている姿を見 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/8/1

吾輩は猫である ―デジニランド 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、夢の国が好きである。 門をくぐった瞬間から、笑顔になり、子どものように目を輝かせる。 人間はこれを、デジニランドと呼ぶ。 現実ではない。 だからこそ、現実を忘れられる。 吾輩は思う。 夢とは、現実から逃げるためだけのものではない。 また明日を頑張るために、心を満たす時間でもある。 猫にも、夢の国はある。 お気に入りの窓辺。 柔らかな毛布。 大好きな人の隣。 そこでは、何時間でも眠っていられる。 人間は、忙しい毎日を送っている。 仕事。 勉強。 家事。 悩み。 だか ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/7/27

吾輩は猫である ―透明人間 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 もし、透明人間になれたら。 人間は、何をするのだろう。 誰にも見つからず、どこへでも行ける。 秘密も、本音も、簡単に知ることができる。 便利そうだ。 だが、吾輩は思う。 本当に怖いのは、透明になることではない。 誰にも、気づいてもらえなくなることだ。 人は、誰かに見てもらいたい。 頑張ったことも、悲しかったことも、小さな成長も。 「見ているよ。」 その一言で、また歩き出せる。 猫も同じである。 名前を呼ばれ、頭を撫でられ、目が合う。 それだけで、ここにいてよいのだと分かる ...