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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―瀬戸内レモン 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、鮮やかな黄色が置かれた。丸く、光を含み、どこか涼しげだ。 人間はこれを、瀬戸内レモンと呼ぶ。 香りは爽やかで、空気を軽くする。だが、一口かじれば、顔が少し変わる。 酸い。 人間は、それを好む。甘さだけでは、物足りぬらしい。 吾輩は思う。酸味とは、拒まれるためのものではないと。 味を締め、輪郭を与え、全体を整える。甘さだけでは、ぼやける。 人生も、似ている。楽なだけでは、記憶に残らぬ。少しの苦味、少しの酸味が、深さになる。 瀬戸内の風は、穏やかだという。強すぎぬ日 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―バームクーヘン 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、丸いものが置かれた。切られると、中に幾重もの層が現れる。 人間はこれを、バームクーヘンと呼ぶ。 年輪のようだと、人間は言う。時間が、甘く重なっているらしい。 一層一層は、薄い。それだけでは、特別なものではない。 だが、重なれば、形になる。 吾輩は思う。日々も同じだと。 一日では、変わらぬ。一回では、差は出ぬ。だが、積み重ねれば、やがて輪になる。 人間は、急ぎたがる。厚く、早く、一気に形を作ろうとする。 だが、焼きすぎれば焦げ、急げば崩れる。 適度な火、適度な時間 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―4月1日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 朝の空気が、少しだけ軽い。同じ道、同じ部屋、だが、人間の歩き方が違う。 人間はこれを、四月一日と呼ぶ。 始まりの日らしい。 新しい名札、新しい席、新しい挨拶。言葉の端に、少しの緊張が混じる。 昨日の続きでありながら、どこか別の一日。 吾輩は思う。始まりとは、完全な新しさではないと。 積み重ねの上に、一枚だけ新しい紙を重ねること。それが、始まりの正体だ。 人間は、変わろうとする。昨日よりも、少し良く、少し前へ。 だが、すべてを変える必要はない。変えぬものがあるから、変わるこ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―3月31日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日で、一つが終わる。暦の上では、ただの一日だが、人間にとっては区切りらしい。 三月三十一日。 机の上には、片付けきれぬ紙と、締めきった仕事。終わったものと、終わらなかったものが、同じ場所にある。 人間は、振り返る。やり切ったか、足りなかったか。答えは、どちらでもないことが多い。 吾輩は思う。区切りとは、整理のための印だと。 すべてを終わらせる日ではない。ただ、ここまで来たと認める日である。 窓の外には、少しだけ春の気配。終わりの隣に、始まりが置かれている。 人は、明日か ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―船を眺める 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 海は、穏やかに見える日ほど、油断を誘う。波は低く、風も弱い。 だが、その静けさの中に、危うさは潜む。 船は、急に大きく崩れるのではない。少しの傾き、少しの偏り、それが積み重なる。 荷の置き方、人の移動、重心のズレ。それらが重なり、ある一点を越える。 そこから先は、速い。 だからこそ、事前に防ぐ。 荷は均等に。急な移動は避ける。波の方向を読む。ライフジャケットを着る。違和感を感じたら、すぐに戻す。 吾輩は思う。安全とは、特別な行動ではないと。 当たり前を、確実に続けること。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―石油と猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 冬になると、部屋の中心に一つの熱が置かれる。目には見えぬが、確かに暖かい。 人間はそれを、石油と呼ぶ。 地の底から来たものが、火を得て、空気を変える。冷えた指先が緩み、言葉も少し柔らかくなる。 猫は、暖かさを知っている。最も効率のよい場所を、自然に選ぶ。 近すぎれば熱い。遠すぎれば届かぬ。その間に、ちょうどよい一点がある。 人間の世界も、似ている。便利なものは、扱いを誤れば危うい。 石油は、力である。動かし、温め、支える。だが、制御を失えば、一瞬で変わる。 だから人は、距 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―油と猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 台所に、独特の匂いが立つ。静かだった空気が、急に動き出す。 人間は、鍋に油を引く。 熱されると、油は変わる。透明から、きらめきへ。やがて、音を伴う。 吾輩は、少し距離を取る。油は、近づきすぎてはならぬものだ。 跳ねる。予測なく、一瞬で。 世の中にも、似たものがある。便利で、役に立ち、だが扱いを誤れば、傷になる。 人間は、火加減を見て、油の状態を読む。早すぎず、遅すぎず。 適切とは、経験でしか測れぬ。 香りは良い。食欲を誘い、場を温める。だが、猫は知っている。 良い匂いほど ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日は、いつもと違う場所にいる。床が揺れ、景色が流れ、匂いが次々と変わる。 人間はこれを、ドライブと呼ぶ。 猫にとって、移動は目的ではない。場所が変わること自体が、一つの出来事だ。 最初は落ち着かぬ。音も、振動も、予測がつかない。だが、しばらくすると、リズムが見えてくる。 一定の速さ、一定の揺れ。それがわかれば、少し安心する。 窓の外には、知らぬ景色。通り過ぎるだけで、手は届かぬ。それでも、見ていると飽きぬ。 人間は、目的地を決める。時間を読み、道を選ぶ。 猫は、今を見る ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―ドライブレコーダ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 車の前に、小さな目が付いた。黒く、黙って、ただ前を見ている。 人間はこれを、ドライブレコーダと呼ぶ。 走るたびに、すべてを記録する。良いことも、そうでないことも、等しく残す。 忘れぬための装置だ。 人は、記憶に頼る。だが記憶は、都合よく変わる。少し丸くなり、少し角が取れる。 機械は違う。そのままを残す。解釈も、感情も、持たぬ。 吾輩は思う。記録とは、正しさのためだけではない。振り返るためにあるのだと。 急いだ瞬間、迷った交差点、ためらった一秒。それらは、後から意味を持つ。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫BBQ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 外が、やけに良い匂いだ。煙が上がり、人間の動きが少し陽気になる。 人間はこれを、BBQと呼ぶ。 肉が焼け、音が弾け、会話が増える。火の前では、人は少し素直になるらしい。 吾輩は、少し距離を取って座る。近づけば熱い。遠すぎれば届かぬ。このあたりが、ちょうどよい。 肉は魅力的だ。だが、焦げた匂いと塩の気配が強い。猫は、素材を好む。 人間は、焼きすぎる。だがそれも、楽しみの一つなのだろう。 役割が分かれる。焼く者、食べる者、片付ける者。火を囲むと、自然に配置が決まる。 吾輩は、 ...