吾輩は猫である ―まいやんカレンダ2026 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 壁に、新しい暦が掛けられた。紙はまだ固く、折り目も新しい。 人間はそれを、まいやんカレンダ2026と呼ぶ。 月が変わるごとに、ページがめくられる。同じ人でありながら、同じではない表情。 時間とは、進むだけでなく、重なるものらしい。 人間は、予定を書き込み、日付に意味を与える。だが、カレンダそのものは、ただ静かに日々を並べている。 美しさとは、変わらぬことではない。変わりながら、整っていることだ。 猫は、暦を持たぬ。だが、朝の光と、夜の気配で、日を知る。 それでも、一枚の紙 ...
吾輩は猫である ―猫シェアハウス編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、家の中に猫が増えた。理由は知らぬ。だが、皿は増え、寝床も増えた。 人間はこれを、シェアハウスと呼ぶらしい。 猫は、群れぬ。だが、共にいることはある。 距離を保ち、場所を分け、干渉しすぎぬ。それで、だいたいうまくいく。 窓辺は人気だ。日当たりは、早い者勝ち。だが、長く居座ると、無言の圧が来る。 皿の順番、水の場所、寝る位置。すべてに、言葉なきルールがある。 破れば、空気が変わる。守れば、何も起きない。 何も起きないことが、最も良い状態である。 人間は、仲良くすることを ...
吾輩は猫である ―戦争下の猫 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 街の音が、少し違う。遠くで低く響き、近くでは人の声が減る。 人間はこれを、戦争と呼ぶ。 昨日まで開いていた店は、半分閉じ、灯りは早く消える。空を見上げる時間が、増えた。 猫は、理由を知らぬ。国も、思想も、境界線も持たない。 それでも、変化はわかる。 餌は減り、足音は急ぎ、人の目には余裕がない。 猫は、静かに場所を変える。危うい通りを避け、安全な影を選ぶ。生き延びるとは、正しさよりも柔らかさである。 人は戦い、勝敗を語る。だが、瓦礫の上ではどちらの足跡も同じだ。 夜になると ...
吾輩は猫である ―AIトレーダー 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、画面が増えた。数字が流れ、線が上下し、人間の眉が動く。 人間はこれを、トレードと呼ぶ。 最近は、人が考える前に、機械が考えるらしい。AIトレーダーという賢い仕組みだ。 市場は速い。一瞬で変わり、一瞬で消える。人の感情より、機械の計算が速い。 だが、数字の裏には、人がいる。 恐れ、欲し、迷い、期待する。その揺れが、値段になる。 AIは、それを学ぶ。過去を読み、確率を積み、最も合理的な一手を選ぶ。 囲碁のように、先を読む。だが、市場は盤面ではない。人の気分が、時々石 ...
吾輩は猫である ―春分の日 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 朝の光が、少し長くなった。窓辺の温度が、昨日より柔らかい。 人間はこの日を、春分の日と呼ぶ。 昼と夜が、同じ長さになるらしい。光と影が、一度だけ釣り合う日だ。 猫にとって、それはなかなか良い日である。 長すぎる夜も、短すぎる昼も、どちらも少し疲れる。 均衡とは、心地よいものだ。 人間はこの日、祖先を思い、季節の境目を感じ、静かに手を合わせる。 冬は去り、春が来る。それは急がず、しかし確実に進む。 庭の空気も、風の匂いも、ほんの少し変わった。 吾輩は、窓辺で丸くなる。陽は柔 ...
吾輩は猫である ―トリミング 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 今日は、少し様子が違う。ブラシが出て、ハサミが光り、人間の動きが妙に慎重だ。 どうやら、トリミングらしい。 猫は本来、自分で整える。毛づくろいという立派な技を持っている。 だが、人間は時々手を出したくなるらしい。 ブラシが入る。毛がふわりと舞う。嫌ではない。だが、好みでもない。 整えるとは、難しいものだ。 やりすぎれば、不自然になる。足りなければ、手入れにならぬ。 人間は、毛の量を見て、形を見て、慎重にハサミを入れる。 その姿は、少しだけ庭師に似ている。 自然を整えるのは ...
吾輩は猫である ―囲碁 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 机の上に、碁盤が置かれる。黒と白の石が、静かに並ぶ。 音は、「コツ」と一つ。それだけで、空気が変わる。 人間はこれを、囲碁と呼ぶ。 将棋のように、駒は動かぬ。取り合いはあるが、戦いというより陣取りである。 吾輩は、盤の横に座る。黒石は夜の色、白石は昼の色。どちらも、丸い。 丸いものは、転がしたくなる。だが、今日は触らぬ。人間が妙に真剣だからだ。 囲碁とは、奪う遊びではない。広げる遊びだ。 相手を消すより、自分の地を整える。急がず、焦らず、盤はゆっくり埋まっていく。 一手の ...
吾輩は猫である ―技術士口頭試験 不合格 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 春の終わりに、一つの結果が届く。紙の上には、短い評価。 人間はこれを、技術士口頭試験の結果と呼ぶ。 合格という二文字は、遠くない場所にある。番号も、ほんの少し違うだけだ。 隣の列には、同じ数字が並ぶ。0000E0000。その人は、合格した。 吾輩は思う。たった一文字が、重い。 EとM。それだけの違いで、春の色が少し変わる。 机の上には、筆記試験の記憶。書いた時間、積み重ねた経験、考えた答え。 それらは、消えない。 だが、評価には丸と印が並ぶ。コミュニケーション。リーダーシ ...
吾輩は猫である ―技術士二次試験 合格発表 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 春先になると、人間は少し落ち着かなくなる。机の上の参考書は閉じられ、画面の前に、静かな緊張が残る。 人間はこれを、合格発表と呼ぶ。 長い時間をかけて、書き、考え、直し、また書く。紙の上に、経験を並べる試みである。 試験とは、知識を問うようでいて、実は姿勢を問う。どこまで考え、どこまで責任を引き受けるか。 結果の文字は、短い。だが、そこに至る道は長い。 喜ぶ者もいれば、静かに画面を閉じる者もいる。どちらも、同じ時間を歩いてきた。 合格とは、終わりではない。むしろ、背負う名が ...
吾輩は猫である ―猫社会の契約 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 猫の世界には、契約書がない。署名も、印鑑も、長い条文もない。 それでも、約束はある。 縄張りは、足音で伝わる。距離は、視線で決まる。近づく者も、退く者も、言葉を使わぬ。 人間は、契約を紙に書く。猫は、空気に書く。 角を曲がる時、誰が先に進むか。屋根の上で、どこまで近づくか。互いの尾が、その境界を知っている。 破れば、すぐわかる。声が荒れ、毛が立ち、関係は崩れる。 守れば、平穏が続く。争いは減り、昼寝の時間が増える。 契約とは、拘束ではない。互いの自由を壊さぬための静かな線 ...









