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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/13

吾輩は猫である ―鍵交換 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 玄関で、見慣れぬ音がする。 金属が外され、新しいものが取り付けられる。 人間はこれを、鍵交換と呼ぶ。 古い鍵でも、昨日までは開いた。 壊れていない。 使えなくもない。 それでも、交換することがある。 吾輩は思う。 安全とは、壊れてから考えるものではないと。 誰かが鍵を持っているかもしれない。 長く使って、仕組みが古くなっているかもしれない。 何も起きていない時ほど、人間は後回しにする。 だが、何か起きてからでは遅いこともある。 猫も同じである。 開いた窓。 少し緩んだ網戸 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/8

吾輩は猫である ―黒歴史 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間には、思い出したくない過去があるらしい。 昔の写真。 昔の文章。 昔の発言。 昔の服装。 できることなら、全部まとめて箱に入れ、押し入れの奥へしまいたい。 人間はこれを、黒歴史と呼ぶ。 吾輩は思う。 ずいぶん大げさである。 その時は、それなりに真剣だったのではないか。 本人は格好いいと思っていた。 正しいと思っていた。 良かれと思っていた。 ただ、今の自分から見ると、少々つらい。 それだけである。 猫にも、似たような過去はある。 飛べると思って、少し高すぎる棚へ挑んだ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―誕生日イベント 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間には、他人の誕生日を、自分のことのように楽しみにする習性がある。 しかも、わざわざチケットを申し込み、当選を祈り、その日まで指折り数える。 人間はこれを、誕生日イベントと呼ぶ。 吾輩は思う。 誕生日とは、本人が一つ歳を重ねる日ではなかったか。 なぜ、周りの人間までこんなに嬉しそうなのだろう。 会場へ行く。 席を探す。 開演を待つ。 そして、本人が姿を見せた瞬間、大きな拍手が起こる。 「おめでとう。」 たった一言のために、これほど多くの人間が集まる。 なかなか悪くない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―日焼け防止 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 夏の陽射しは、容赦がない。 朝だから大丈夫。 少しだけだから平気。 そう思っているうちに、人間の肌は赤くなる。 人間はこれを、日焼けと呼ぶ。 吾輩は思う。 太陽とは、暖かいだけではないと。 光をくれる。 体を温める。 だが、浴びすぎれば、負担にもなる。 人間は、日焼け止めを塗る。 帽子をかぶる。 日傘を差す。 長袖を着る。 なるほど。 ずいぶん装備が多い。 猫なら、もっと簡単である。 暑ければ、日陰へ行く。 眩しければ、カーテンの向こうへ移る。 無理に陽射しと戦わない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―倍返し 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、やられたことを、よく覚えている。 一度されたことを、二度返したくなる。 人間はこれを、倍返しと呼ぶ。 なるほど。 気持ちは、少し分かる。 猫も、嫌なことをされれば、しばらく距離を取る。 撫で方が雑なら、次は近づかぬ。 しつこく追われれば、一段高い場所へ逃げる。 だが、倍にはしない。 一度引っかかれたから、二度引っかく。 一回怒鳴られたから、二倍怒鳴り返す。 それでは、いつまでたっても終わらぬ。 吾輩は思う。 仕返しとは、気持ちを晴らすようでいて、次の仕返しを生むこ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―夏休み終わり 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 八月の終わりが近づくと、人間の顔が少し曇る。 子供は、宿題を思い出す。 大人は、仕事を思い出す。 人間はこれを、夏休みの終わりと呼ぶ。 始まる前は、あれほど長く見えた。 旅行へ行こう。 海へ行こう。 花火を見よう。 何もしない日も作ろう。 予定は、いくらでもあった。 だが、休みというものは、始まった瞬間から減っていく。 吾輩は思う。 人間は、終わりが近づいてから、急に時間を惜しむ生き物である。 まだ一週間ある。 まだ三日ある。 そして、 「もう明日しかない。」 そこで、や ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―XとY 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間の体には、ずいぶん小さなところに、大きな違いを生む仕組みがあるらしい。 X。 そして、Y。 人間はこれを、性染色体と呼ぶ。 たった一文字違うだけで、男になったり、女になったりする。 もちろん、現実はそれほど単純でもない。 遺伝子。 ホルモン。 成長。 そして、一人一人の違い。 生き物とは、教科書ほどきれいには分かれぬものらしい。 吾輩は思う。 人間は、何かにつけて二つに分けたがる。 男か女か。 強いか弱いか。 理系か文系か。 犬派か猫派か。 最後だけは、答えが明らかな ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―裏切りと化かし合い 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、時々笑いながら近づく。 味方のように見える。 親しげに話す。 だが、心の中では別のことを考えている。 人間はこれを、裏切りとか、化かし合いとか呼ぶ。 吾輩は思う。 実に器用な生き物である。 猫なら、嫌なら離れる。 警戒すれば、耳が動く。 怒れば、尻尾に出る。 隠しているつもりでも、だいたい漏れている。 人間は違う。 笑顔のまま、距離を詰める。 褒めながら、値踏みする。 握手しながら、次の一手を考える。 なかなか高度である。 だが、吾輩は思う。 化かし合いとは、賢さ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―猫甲子園編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 夏になると、人間は白い球を追いかける。 土の上を走り、汗を流し、一球に声を張る。 人間はこれを、甲子園と呼ぶ。 勝てば、次がある。 負ければ、その夏は終わる。 実に、分かりやすい。 吾輩は思う。 だからこそ、人間はあれほど夢中になるのだろうと。 いつまでも続くものなら、一球の重さは薄くなる。 だが、終わりがあると分かっているから、全力で走る。 猫なら、暑い昼間に走り回ることなど、まずしない。 日陰へ行く。 水を飲む。 涼しくなるまで、じっと待つ。 甲子園球児には、到底向い ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/9/6

吾輩は猫である ―文学賞への挑戦 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、時々ずいぶん不思議なことをする。 何万字も書く。 何度も直す。 削っては戻し、戻してはまた削る。 ようやく完成すると、今度はそれを知らない人に送りつけ、評価してもらおうとする。 人間はこれを、文学賞への挑戦と呼ぶ。 なかなか勇気のいる遊びである。 書いている間は、自分だけの世界だ。 登場人物を歩かせ、泣かせ、笑わせ、時には死なせる。 作者は、ほとんど神である。 ところが応募した瞬間、急に弱くなる。 一次選考。 二次選考。 最終候補。 発表日。 それまで神だった人間 ...