吾輩は猫である ―米朝首脳会談 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、海の向こうで、また二人の人間が会うかもしれないという。 アメリカの大統領と、北朝鮮の最高指導者。 人間はこれを、米朝首脳会談と呼ぶ。 以前にも、二人は会った。 握手をした。 笑顔を見せた。 世界中のカメラが、その一瞬を追いかけた。 吾輩は思う。 人間は、握手が好きである。 猫なら、いきなり前足を差し出されたら、まず警戒する。 少し離れる。 匂いを見る。 相手の目を見る。 それから、近づいてよい相手かを決める。 どうやら外交も、それほど違わないらしい。 アメリカは、核 ...
吾輩は猫である ―北方領土訪問 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 海の向こうに、故郷がある。 見えているのに、自由には行けない。 人間はそこを、北方領土と呼ぶ。 国後島。 択捉島。 色丹島。 歯舞群島。 かつて、そこで暮らしていた人たちがいる。 家があった。 学校があった。 墓がある。 思い出がある。 だが、戦争が終わって八十年以上が過ぎても、自由に帰ることはできない。 吾輩は思う。 故郷とは、地図の上の色ではない。 子供の頃に歩いた道。 家族と食べた飯。 窓から見えた海。 そこに暮らした者にしか分からぬ、匂いのようなものではないかと。 ...
吾輩は猫である ―雨被害 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 雨は、静かに降る。 最初は、屋根を叩く音も心地よい。 だが、降り続けば話は変わる。 川が増え、道路が沈み、土が崩れる。 人間はこれを、雨被害と呼ぶ。 吾輩は思う。 怖いのは、雨そのものではない。 「まだ大丈夫」と、動かないことである。 水は、一気に増えることがある。 昨日まで通れた道が、今日は通れぬこともある。 だから、早めに見る。 天気を見る。 川を見る。 避難場所を確かめる。 そして、猫のことも忘れない。 キャリー。 餌。 水。 薬。 トイレ用品。 人間だけ逃げればよ ...
吾輩は猫である ―可愛い来客 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 玄関の向こうで、いつもと違う声がする。 足音も、匂いも、少し違う。 人間はこれを、来客と呼ぶ。 吾輩は、まず離れて見る。 知らぬ者に、すぐ近づくほど軽率ではない。 だが、今日の客は少し違う。 声が柔らかい。 動きがゆっくりしている。 そして何より、吾輩を見る目が、妙に嬉しそうである。 人間は言う。 「かわいい。」 吾輩は思う。 それは、こちらの台詞かもしれぬと。 来客は、無理に触ろうとしない。 追いかけない。 大きな声も出さない。 ただ、少し離れた場所から、吾輩を見ている ...
吾輩は猫である ―中間選挙 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 アメリカでは、大統領を選んでから二年ほどすると、また大きな選挙がやってくる。 人間はこれを、中間選挙と呼ぶ。 中間。 なんとも、地味な名前である。 期末でもなく、最終でもない。 だが、人間たちは妙に真剣である。 勝った。 負けた。 政権への審判だ。 いや、まだ支持されている。 テレビでは、朝から晩までそんな話をしている。 吾輩は思う。 中間なら、もう少し気楽にしてはどうかと。 だが、どうやらそうもいかぬ。 大統領が何かをしたくても、議会の勢力が変われば、思うように進まなく ...
吾輩は猫である ―国際規格 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 人間は、国が違っても、同じように通じる決まりを作ろうとする。 人間はこれを、国際規格と呼ぶ。 寸法。 品質。 安全。 情報セキュリティ。 環境。 それぞれの国が、好き勝手なやり方をしていては、物も仕組みも、うまくつながらない。 だから、共通の物差しを作る。 吾輩は思う。 これは、なかなか大切なことである。 猫の世界でも、相手の尻尾が大きく膨らんでいれば、だいたい近づかない。 耳が後ろへ倒れていれば、少し距離を取る。 国は違っても、猫語には、それなりの共通規格があるらしい。 ...
吾輩は猫である ―ローカルLLM 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、人間はAIを、遠くの大きな計算機だけでなく、自分のパソコンの中でも動かそうとしている。 人間はこれを、ローカルLLMと呼ぶ。 なるほど。 AIまで、家猫になったらしい。 クラウドへ行かず、手元で考える。 文章を読み、要約し、質問にも答える。 しかも、外へ出さずに済む情報もある。 吾輩は思う。 これは、なかなか猫向きである。 猫は、自分の縄張りを好む。 知らぬ場所へ、何でも持ち出したりはしない。 大切なものは、できれば家の中で扱う。 ローカルLLMも、少し似ている。 ...
吾輩は猫である ―GPU vs NPU なんじゃ?編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、人間のコンピュータには、いろいろな頭脳が入っているらしい。 CPU。 GPU。 そして、NPU。 アルファベットばかりである。 吾輩は思う。 なんじゃ? まず、GPUという者。 もともとは、画面に絵を描く仕事が得意だった。 だが、同じような計算を大量にこなすのも得意だったため、いつの間にかAIまで働かされるようになった。 猫で言えば、一斉に百個の猫じゃらしを追えるような者である。 なかなか忙しい。 一方、NPUという者。 こちらは最初から、AIの計算を効率よくこなす ...
吾輩は猫である ―若手 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 若い者は、よく動く。 覚えることも多く、失敗することも多い。 人間はこれを、若手と呼ぶ。 任せれば、少し心配。 任せなければ、いつまでも育たない。 人間の世界は、なかなか難しい。 吾輩は思う。 若手に必要なのは、正解を全部教えることではない。 考える余地を残すことだ。 やってみる。 迷う。 相談する。 直す。 その繰り返しで、少しずつ自分の型ができていく。 猫も、子猫の頃は失敗する。 跳び損ねる。 距離を読み違える。 怒られて、少し学ぶ。 だが、何度も試すうちに、いつの間 ...
吾輩は猫である ―猫友 編―
吾輩は猫である。名前はまだない。 猫を好きな者同士は、不思議と話が早い。 初対面でも、写真を一枚見せれば、会話が始まる。 「何歳ですか。」 「何匹いますか。」 「この子、よく食べますか。」 人間はこれを、猫友と呼ぶ。 吾輩は思う。 友とは、同じ趣味を持つ者だけではない。 同じものを、大切に思える者なのだと。 猫の話をする。 病院の話をする。 餌の話をする。 時には、看取りの話まで出る。 可愛いだけではない。 困ったことも、心配なことも、一緒に話せる。 だから、少し安心する。 人間は、自分の猫を褒められると ...









