吾輩は猫である。名はまだない。 年の瀬、飼い主が大きなスーツケースを引きずりながら言った。「さあ、実家に帰るよ」そう、吾輩も一緒に“帰省”するのである。 まずは空港へ向かうバス。だが、乗り継ぎが悪い。一本逃せば次は三十分後、吾輩のキャリーの中は早くも蒸し風呂状態だ。飼い主は焦り、スマホで時刻表をにらみつけている。吾輩はただ無言で見守る――猫は慌てぬ。慌てても、バスは早く来ぬのだ。 ようやく空港に着き、飛行機のエンジン音が唸る。離陸の瞬間、吾輩の体はふわりと浮き、窓の外に小さく街が遠ざかっていく。あの下に、 ...