吾輩は猫である。名はまだない。 吾輩の住まいは高層マンション。地上を駆け回る猫に比べれば不自由かと思いきや、ここにも独特の面白さがある。 まず、窓からの眺めだ。鳥は小さな点となり、車は箱庭の玩具のよう。吾輩は毎日、天空から世界を見下ろしている気分である。 だが、マンション暮らしには掟がある。廊下に勝手に出てはならず、夜中に大声で鳴けば隣から苦情が飛ぶ。しっぽを高く掲げて歩くにも、人間のルールをわきまえねばならぬ。 それでも、上下左右に暮らす人々の気配は、退屈を紛らわせる。ピアノの音、子どもの笑い声、そして ...