吾輩は猫である。名はまだない。 その日は朝から、飼い主の歩き方が少し軽かった。鼻歌まじりでコーヒーを淹れ、スマホを何度も確認している。――これは何かある。 昼過ぎ、飼い主が小さくガッツポーズをした。「出た……!」どうやら“賞与”なるものが支給されたらしい。人間界のご褒美制度である。 吾輩はすぐに理解した。この日は、・帰りが少し早く・機嫌が良く・夕飯がやや豪華になる確率が高い。 案の定、夜にはいつもより良い缶詰が開いた。「今日は特別だよ」その言葉を、吾輩は何度聞いたことだろう。だが“特別”が何度あっても困ら ...