吾輩は猫である。名はまだないが、今は見知らぬ匂いのする部屋にいる。そう、ここは「猫ホテル」なる場所らしい。飼い主が旅行とやらに出かけるとかで、吾輩をここに預けたのだ。 「快適な個室」「24時間空調完備」「ストレスフリー」――人間が謳う文句はどれも麗しい。だが、吾輩に言わせれば、これはまごうことなき監禁である。 まず、知らぬ猫の声が聞こえる。薄い壁の向こうでは、三毛の女王が騒いでおるし、斜め下の黒猫は夜な夜な「出せ」と鳴く。スタッフとやらは笑顔だが、吾輩のしっぽの動きの意味を理解せぬ。カリカリは銘柄が違うし ...