吾輩は猫である。名前はまだない。 車の前に、小さな目が付いた。黒く、黙って、ただ前を見ている。 人間はこれを、ドライブレコーダと呼ぶ。 走るたびに、すべてを記録する。良いことも、そうでないことも、等しく残す。 忘れぬための装置だ。 人は、記憶に頼る。だが記憶は、都合よく変わる。少し丸くなり、少し角が取れる。 機械は違う。そのままを残す。解釈も、感情も、持たぬ。 吾輩は思う。記録とは、正しさのためだけではない。振り返るためにあるのだと。 急いだ瞬間、迷った交差点、ためらった一秒。それらは、後から意味を持つ。 ...