gonta

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/13

吾輩は猫である ― 3匹の猫ともふもふのしっぽ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家では「長男猫」として、冷静と威厳を保っている(つもりだ)。 ただし、あのしっぽが現れるまでは。 ――ちょび。小柄で人懐こく、目はくりくり。だが彼の真の武器は、その背後にある。 しっぽ。もふもふ。いや、正確に言えば、一本の“毛布”である。 触れればぬくく、巻かれれば夢見心地。吾輩ですら、気づけばあの毛布のそばで丸くなってしまう。 冷蔵庫の上からクロミが言う。「今日も自前の暖房、働いてるね」無愛想な彼女も、冬場だけはちょびのしっぽにだけ心を許す。 猫同士 言葉はなくて  ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ルンバ(窓拭き掃除)編―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家で、縦の空間は吾輩の領分と決まっていた。棚の上、冷蔵庫の上、窓際のひなた。床を這う“ルンバ”には手が出せぬ場所――それが高みの誇りだった。 しかし今日、異変が起きた。 「届いた〜!窓用ロボットクリーナー!」飼い主の叫びとともに、吸盤のようにピタリと窓に張りつく円盤型。うぃ〜ん……と低く唸りながら、上下左右へ滑るように動く。 なんだこれは。床用ルンバの“従兄弟”か?それとも、重力を裏切った新種の敵か? 吾輩はキャットタワーの中腹から、窓を見つめた。ふだん、午前の日差し ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ―富士山盛りお蕎麦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日、目撃したのは――蕎麦の山である。 「富士山盛りお願いします!」飼い主の声は妙に張りがあり、厨房から「はい、登山一丁!」と返ってきた。登山? それは人間のメタファーというやつか。 運ばれてきたのは、高さ30cmはあろうかという蕎麦の塔。天辺には海苔がふわり、つゆは別小鉢。店内の空気がざわめき、スマホのカメラが集まる。 吾輩は思った。この量、食べたいのか。食べたいと思いたいのか。 飼い主は箸を構え、登頂を開始。「いただきます!」一口、二口……だがすぐに表情が曇る。「…… ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ルンバとの心理戦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、円盤型侵略者との戦いに備えている。 名を「ルンバ」。人間が“便利な掃除機”などと言うが、吾輩からすれば――定時で襲来する静音の脅威である。 午前10時、定刻通り“あいつ”が起動。カタカタ…という機械音とともに、床の一点をひたすら磨き始める。その動きは不規則、かつ執拗。寝床の下にも容赦なく侵入する。 吾輩は動かぬ。ここが戦場であるならば、まずは“目を合わせぬ”のが鉄則。動けば負け。動かねば、家具と認識される。 だがルンバは賢くなっている。一瞬、吾輩に進路を合わせて向 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― 参議院選挙(SNS注意)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、飼い主のスマホから聞こえる言葉を聞き逃さない。 「この候補はダメ」「こっちはマシ」「どれも同じじゃん」参議院選挙が近づき、タイムラインは炎のようにざわついている。 飼い主は寝転がってスマホをスクロールしながら、ときおり眉をひそめ、たまに口角を上げ、そして、誰かの投稿をシェアした。 その言葉、ほんとうに自分の声か? 猫は言葉を持たぬ。だからこそ、言葉の重さをよく観察している。一度つぶやけば戻らず、スクリーンに刻まれた感情が、誰かを傷つけることもある。 「陰謀」「売国 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

― 吾輩は猫である ― 東京カレンダー(表紙)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今月の『東京カレンダー』表紙に抜擢された。 撮影場所は麻布のレストラン、夜景を背にしたバーカウンターの上。グラスの水を傾けるでもなく、ただ静かに、吾輩はポーズを決める。 テーマは――「夜に溶ける、孤高の猫」。 スタイリストは言った。「毛並みがシルクですね。ライティングが映えます」ふん、分かっておる。東京とは、“見られること”に意味がある場所なのだ。 だが撮影後、飼い主はぽつりと呟いた。「この子、ほんとは家じゃ煮干しが好きでね。 表紙に写ってるキャビアには見向きもしないんで ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ミッション・インポッシブル(猫)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今夜ばかりは、コードネーム「シャドウ」。任務はただ一つ――飼い主の焼き魚を、無傷で確保せよ。 作戦開始は、21時12分。飼い主が風呂へ突入したタイミングを見計らい、吾輩は静かに着地音ゼロで台所へ侵入。 障害①:キッチンの腰高カウンター。滑る。高い。だがキャットタワーで鍛えた跳躍力で無音突破。 障害②:焦げた秋刀魚から発せられる匂い。強すぎる…!鼻を鳴らせば位置がバレる。ここは平常心、深呼吸。 だが最大の難関は、あの“赤外線センサー”――そう、見張り役のルンバである。夜間モ ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ふみふみ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、飼い主のブランケットを見れば、ふみたくなる衝動がこみあげてくる。 ふみふみ。前足を交互に出して、ぎゅっ、ぎゅっ。毛布が柔らかいと、つい本能が目を覚ます。 飼い主は言う。「出た、“ふみふみ”タイムね。赤ちゃんみたい」笑われようとも、これは吾輩の無言の祈りである。 あたたかい場所、やわらかな匂い、母の胸を探すような仕草。 ――けれど、今この瞬間、吾輩がふみふみしているのは、飼い主のひざの上だ。 忘れても 本能だけが 覚えてる ふみふみは甘えだけじゃない。信頼の証であり、安心 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/1

吾輩は猫である ― 会社が好きすぎる猫編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが「社ネコ」と呼ばれている(らしい)。 きっかけはテレワーク。飼い主が毎日パソコンを開き、電話に出たり、「MTG入ります」とか言って静かになったり。その横にぴたりと寄り添うのが、吾輩の日課だった。 会議中に顔を出せば「かわいいですね」と評判になり、画面越しに“社員証つけて”という声もあった。まさに吾輩、社風の一部と化していたのである。 だがある日、飼い主が言った。「明日からは出社よ。会社、行ってきます」 ……なぬ?吾輩はどうなる?職場の椅子も、デスクのにおいも知らぬまま、置 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/1

吾輩は猫である ― 七夕、年に一度の再会編―

吾輩は猫である。名はもう覚えている。あの人が呼ぶ、やわらかな声の響きとともに、毎年よみがえるのだ。 今夜は七月七日。年に一度だけ、あの人が帰ってくる。遠くの国で働いているらしく、普段は画面の中にしかいない。 飼い主の母が言った。「今日は七夕ね、あの子もそろそろ来る時間よ」 玄関の音に耳を澄ませ、吾輩はいつもと違う毛づくろいをする。鼻先からしっぽの先まで、丁寧に。 そして、開く扉。「ただいま」 その声に、全身の毛がふわりと立つ。吾輩は忘れていないのだ。一年のうち、この一瞬のために生きているような時間を。 飼 ...