吾輩は猫である ― もし徴兵されたら篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今日、ポストに届いていた一通の封筒を見て、人間たちはざわめいた。「まさか、おまえに召集令状…?」 冗談ではない。もし猫に兵役義務などというものが課されたら、世界は一変する。 まず、朝の点呼に集まらぬ。なにせ吾輩は朝日と共に起きるが、眠くなったらその場で寝る。起床ラッパより、腹時計のほうが正確である。 訓練? 駆け足?それならカラスを追い回すほうが100倍マシだ。 命令には従わぬ。それは猫の矜持である。「伏せ」と言われて伏せる猫など、この地球にはおるまい。あえて言えば、気が ...
吾輩は猫である ― 猫が首相になったら篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だがこのたび、与党の全会一致により「首相」に選ばれた。※なお理由は「人間よりマシかもしれぬ」であった。 組閣は順調だ。・外務大臣:三毛猫(海外の匂いに敏感)・財務大臣:黒猫(財布のヒモが固い)・官房長官:茶トラ(やたら人懐っこいが、重要なことは濁す) 記者会見では、質問に答えずにゴロリと寝転んだ。「説明責任は?」と詰め寄る記者に、ただしっぽを1回振った。これが“猫答弁”である。 議会では、野党が「予算案の具体性が欠ける!」と吠えた。吾輩は静かにカリカリを一粒床に落とし、こう言 ...
吾輩は猫である ― 2025年の日本と政治篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。それでも、政治には少し興味がある。いや、正確に言えば、「飼い主の機嫌が家計と連動している」ため、吾輩にも無関係ではないのだ。 2025年の日本では、選挙のたびに「変えなきゃ」「誰に入れれば…」と人間たちが眉間にしわを寄せている。だが、変えることよりも、変わらぬ不信のほうが重くなっているように見える。 官僚、企業、自治体。それぞれに責任があるが、誰にも責任がない。首相の言葉は控えめで、野党の声は遠く、結局、吾輩のエサの値段だけが確実に上がった。 猫の世界では、群れの中に“ボス” ...
吾輩は猫である ― 新人歓迎編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今朝から、部屋の空気がどこかそわそわしている。飼い主がエプロンを直しながら言った――「今日は新人歓迎ランチなのよ」 人間の世界では、新しくやってきた誰かを“歓迎”するらしい。だが吾輩に言わせれば、猫の世界に歓迎などない。来たければ来ればよい。なじめなければ、そのまま去るのもまた自然だ。 とはいえ、吾輩の縄張りにも、若い猫がふらりと現れたことがある。最初はフーと威嚇したが、3日もすれば、彼が追い払ったカラスの恩を感じて、黙って隣に並んで日向ぼっこをしていた。 つまり、“歓迎 ...
吾輩は猫である ― ChatGPTで技術士勉強編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。このところ飼い主が、やたらとキーボードを叩いている。聞けば「技術士試験の勉強中」だという。 しかも、相手は吾輩ではなく“チャットジーピーティー”?「おぉ、これはいい切り口」「うーん、600文字におさまらん…」などと、AIと真剣に対話している。まるで家庭内口述試験である。 吾輩は思った。そこまでして“論理的に書け”というのか。思いついたまま、のびのびと毛づくろいする吾輩には、到底理解できぬ世界だ。 だが、不思議なことが起きた。飼い主が書いた文章を、AIが「この文脈では“具体例” ...
吾輩は猫である ― 父の日篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。この家に来て3年になるが、“おとうさん”とは今も目が合わぬ。吾輩が擦り寄れば「よせよせ、毛がつく」と言い、ソファを占領すれば「またおまえか」とため息をつく。 なのに、今日だけは違った。家族が「今日は父の日やで」と言ったとたん、彼は少し背筋を伸ばし、「いや別に、何もいらんけどな…」などと、わかりやすく期待している。 母はネクタイを、子は肩たたきを。そして吾輩は――そっと、例の“高級ちゅ〜る”を差し出した。いや、正確には彼が読んでいた新聞の上に乗っただけなのだが、そこに置いてあっ ...
吾輩は猫である ― ニューロリンク篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今朝のニュースで、人間が「脳にチップを埋めた」と聞いて、思わず耳がぴくりと動いた。 ニューロリンクというらしい。脳の信号を読み取り、文字を打ち、記憶に触れ、ついには心までつなぐという。ふむ、便利なようで、どこかぞっとする話である。 飼い主は言った。「猫にチップを埋めて、気持ちが読めたらいいのになぁ」 とんでもない。吾輩がちゅ~るをねだったふりをして、実は温かい膝を確保したいだけだとか――そんな“戦略”が全部バレてしまうではないか。 それに、猫という生き物は、言葉にならぬ“ ...
吾輩は猫である ― 2025年の日本篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。2025年の日本は、どうやら忙(せわ)しない。 AIが書き、ロボットが運び、冷凍されたラーメンが自動で茹であがる。猫用の翻訳首輪なるものも登場したが、吾輩は断固として沈黙を守る。言葉が通じたら、気まぐれがバレてしまうからだ。 人間たちは「物価が高い」と嘆きながらも、スマートフォンに顔を押し当てて、スワイプで夕飯を決めている。買えぬのに、欲しがる。疲れてるのに、動き続ける。これが2025年という時代の流儀らしい。 大阪では万博の準備が進み、空には“空飛ぶクルマ”が実証実験をして ...
吾輩は猫である ― 長嶋茂雄篇 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが「ミスター」と呼ばれる男の名は、街角のテレビから今も流れてくる。そう、長嶋茂雄――というらしい。 野球という遊びのなかで、彼はひときわ派手に、そして自由に動いたそうだ。「サードの守備が舞っていた」「バットを振るたびに風が変わった」――人間はそんなふうに、まるで伝説を語るように話す。 ふむ、どこか吾輩に似ていなくもない。 気まぐれで、華やかで、理屈ではなく感覚で生きている。だがその背後には、並々ならぬ集中力と、“型にはまらぬ型”があったという。 飼い主がかつて言った。「ミス ...
吾輩は猫である ― アドバンスト・イノベーション・モビリティ篇 ―
吾輩は猫である。名はまだないが、最近ニュースで「AIM」という言葉を耳にするようになった。アドバンスト・イノベーション・モビリティ――実に舌を噛みそうな名だが、どうやら人間たちが未来へ向けて“何かすごいこと”を始めるらしい。 AI、半導体、ロボット、空飛ぶクルマ――まるでおもちゃ箱をひっくり返したような政策が語られている。吾輩にしてみれば、空は鳥のもの、走るのは犬のもの、そして未来は誰のものでもない。 飼い主は「AIで日本が変わるんやって」と言いながら、スマホの音声認識に「ちがう、それちゃう」と怒っていた ...