gonta

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/20

吾輩は猫である ― 海の日(熱中症注意)編―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日は、**夏の祝日「海の日」**である。 海は見たことがない。けれど、テレビが見せてくれた。青い空、白い砂浜、はしゃぐ人間たち。飼い主もそわそわしながら、浮き輪をふくらませていた。 「暑くなるらしいから、水分とってね」母のような口ぶりで、吾輩の水皿を満たしてくれる。外に行くのは飼い主のほうなのに、水を飲むのは吾輩のほうが上手である。 留守番中、エアコンの設定は28度。それでも午後の日差しは床を焼く。吾輩は、風の通る玄関タイルで身体をのばした。 玄関に吊るされた温湿度計が ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/13

吾輩は猫である ― 初盆と送り火編 ―

吾輩は猫である。名はもう、呼ばれなくなった。この夏、初めてのお盆を迎えた。 線香の香りと、精霊馬。仏間に飾られた、吾輩の写真。飼い主が小さな声で言った。 「帰ってきてるかな、あの子……」 帰っているとも。ここに、ちゃんと。 けれど、姿は見えないし、声も届かない。ただ、思い出の隙間にそっと潜りこむ。ふみふみしていた座布団の上、のぞいていた冷蔵庫の下、こっそり登って怒られた棚の上。 そこに、吾輩はいた。 初盆や 気配で帰る ひとときに 飼い主は猫じゃらしを手にして、ふと動きを止めた。「もう、これを振る相手もい ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/13

吾輩は猫である ― 猫界の議員選挙編―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今、町内猫会議の選挙戦まっただなかである。 今回の争点は三つ。・深夜のエサ配分の見直し・野良猫エリアの縄張り整理・外猫にもキャットドアの通行権を与えるか 立候補したのは、三匹。 一匹目、「ミケ姐」。押しの強さで知られるボス猫系メス。「空腹に遠慮なし!」をスローガンに、夜中3時の追給を提案。演説はもっぱら屋根の上からである。 二匹目、「クロ公」。警戒心が強く、縄張り重視。「他猫排除こそ安全保障」とうたう保守派。投票用紙も噛むので注意が必要だ。 三匹目、「チャラ松」。最近保護 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/13

吾輩は猫である ― 梅雨明け早いぞ、7月の台風編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが耳は利くし、気圧にはめっぽう敏感である。 今年の梅雨は、例年より早く明けた。飼い主が「過去最速だって!」と嬉しそうに洗濯物を干した、その翌日――吾輩は、耳の奥がキュッと締まるような気配を感じた。 来るな、これは。来るぞ。 案の定、スマホが鳴った。「えっ、台風!? 7月なのに!?」 梅雨が明けたら夏だと思ったら、大間違いである。 空は青いのに、風がざわざわと落ち着かない。風鈴の音が妙に甲高く、カーテンの向こうで何かがざわついている。 「せっかく夏始まったばっかりなのに〜」と ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/13

吾輩は猫である ― 3匹の猫ともふもふのしっぽ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家では「長男猫」として、冷静と威厳を保っている(つもりだ)。 ただし、あのしっぽが現れるまでは。 ――ちょび。小柄で人懐こく、目はくりくり。だが彼の真の武器は、その背後にある。 しっぽ。もふもふ。いや、正確に言えば、一本の“毛布”である。 触れればぬくく、巻かれれば夢見心地。吾輩ですら、気づけばあの毛布のそばで丸くなってしまう。 冷蔵庫の上からクロミが言う。「今日も自前の暖房、働いてるね」無愛想な彼女も、冬場だけはちょびのしっぽにだけ心を許す。 猫同士 言葉はなくて  ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ルンバ(窓拭き掃除)編―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家で、縦の空間は吾輩の領分と決まっていた。棚の上、冷蔵庫の上、窓際のひなた。床を這う“ルンバ”には手が出せぬ場所――それが高みの誇りだった。 しかし今日、異変が起きた。 「届いた〜!窓用ロボットクリーナー!」飼い主の叫びとともに、吸盤のようにピタリと窓に張りつく円盤型。うぃ〜ん……と低く唸りながら、上下左右へ滑るように動く。 なんだこれは。床用ルンバの“従兄弟”か?それとも、重力を裏切った新種の敵か? 吾輩はキャットタワーの中腹から、窓を見つめた。ふだん、午前の日差し ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ―富士山盛りお蕎麦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日、目撃したのは――蕎麦の山である。 「富士山盛りお願いします!」飼い主の声は妙に張りがあり、厨房から「はい、登山一丁!」と返ってきた。登山? それは人間のメタファーというやつか。 運ばれてきたのは、高さ30cmはあろうかという蕎麦の塔。天辺には海苔がふわり、つゆは別小鉢。店内の空気がざわめき、スマホのカメラが集まる。 吾輩は思った。この量、食べたいのか。食べたいと思いたいのか。 飼い主は箸を構え、登頂を開始。「いただきます!」一口、二口……だがすぐに表情が曇る。「…… ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― ルンバとの心理戦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、円盤型侵略者との戦いに備えている。 名を「ルンバ」。人間が“便利な掃除機”などと言うが、吾輩からすれば――定時で襲来する静音の脅威である。 午前10時、定刻通り“あいつ”が起動。カタカタ…という機械音とともに、床の一点をひたすら磨き始める。その動きは不規則、かつ執拗。寝床の下にも容赦なく侵入する。 吾輩は動かぬ。ここが戦場であるならば、まずは“目を合わせぬ”のが鉄則。動けば負け。動かねば、家具と認識される。 だがルンバは賢くなっている。一瞬、吾輩に進路を合わせて向 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

吾輩は猫である ― 参議院選挙(SNS注意)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、飼い主のスマホから聞こえる言葉を聞き逃さない。 「この候補はダメ」「こっちはマシ」「どれも同じじゃん」参議院選挙が近づき、タイムラインは炎のようにざわついている。 飼い主は寝転がってスマホをスクロールしながら、ときおり眉をひそめ、たまに口角を上げ、そして、誰かの投稿をシェアした。 その言葉、ほんとうに自分の声か? 猫は言葉を持たぬ。だからこそ、言葉の重さをよく観察している。一度つぶやけば戻らず、スクリーンに刻まれた感情が、誰かを傷つけることもある。 「陰謀」「売国 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/7/6

― 吾輩は猫である ― 東京カレンダー(表紙)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今月の『東京カレンダー』表紙に抜擢された。 撮影場所は麻布のレストラン、夜景を背にしたバーカウンターの上。グラスの水を傾けるでもなく、ただ静かに、吾輩はポーズを決める。 テーマは――「夜に溶ける、孤高の猫」。 スタイリストは言った。「毛並みがシルクですね。ライティングが映えます」ふん、分かっておる。東京とは、“見られること”に意味がある場所なのだ。 だが撮影後、飼い主はぽつりと呟いた。「この子、ほんとは家じゃ煮干しが好きでね。 表紙に写ってるキャビアには見向きもしないんで ...