吾輩は猫である ―猫プログラミング 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主がノートパソコンを開いたまま席を立った。画面には、不思議な文字列が並んでいる。if, else, for, {}……まるで人間が書いた“秘密の日記”のようだ。 吾輩は興味に勝てず、キーボードの上にそっと前足を置いた。すると画面が一気に動き出し、警告の窓がぽんぽんと増えていった。 ――どうやら“バグ”を大量に発生させてしまったらしい。 そこへ飼い主が戻ってきて叫んだ。「うわっ、コードが崩壊してる!!」吾輩は静かに尻尾を巻いた。プログラムとは繊細な生き物なのだな。 ...
吾輩は猫である ―原発再稼働 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 ある夜、飼い主がテレビを見ながらため息をついた。「また原発を動かす話が出てきたか……」画面では、議員たちが真剣な顔で討論していた。 吾輩には“原発”というものの仕組みはよく分からぬ。だが、その言葉の響きには、人間たちの不安と願いが同時に混ざっている気がした。 人は寒い冬に暖を求め、産業に電気を求め、未来の子どもたちには“安全”を願う。それらがぶつかり合う場所に、この問題は立っているのだろう。 吾輩はストーブの前に座りながら考えた。電気がなければ、この暖かさもない。しかし、あ ...
吾輩は猫である ―猫ノーベル賞 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 今日、飼い主がスマホを見ながら突然叫んだ。「ちょっと! 君、ノーベル賞とったらしいよ!」吾輩は尻尾を立てて驚いた。――何の賞である? 平和賞か? 医学賞か? それとも“昼寝学賞”か? どうやら発表によれば、吾輩の“人間のメンタルを安定させる行動”が世界に多大なる貢献をしたらしい。つまり、ひざの上で寝ること、喉を鳴らすこと、そっと寄り添うこと――それらすべてが科学的に証明されたというのだ。 授賞式では、スウェーデン王室の方々が拍手をしていた。吾輩は赤いカーペットの上を慎重に歩 ...
吾輩は猫である ―お米券 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が引き出しを整理していたときのことだ。ぽん、と机の上に小さな黄色い封筒が置かれた。「わあ、お米券だ!」と飼い主が声を上げた。 吾輩は首をかしげた。――米なら、いつも袋で買っているではないか。なぜ紙切れひとつで喜ぶのか。 飼い主は、吾輩の疑問を読んだかのように語り出した。「昔はね、お祝いとか贈り物とかに“お米券”をよくもらったんだよ。 今でも使えるし、なんだか懐かしくて嬉しいんだよね。」 ふむ……なるほど。人には、物そのものよりも、そこに添えられた“気持ち”が価 ...
吾輩は猫である ―年末調整 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 十二月のある日、飼い主がダイニングテーブルいっぱいに書類を広げていた。「生命保険料控除証明書」「住宅ローン」「扶養」――人間とは、どうしてこうも複雑な紙を愛するのか。 吾輩はその真ん中に座り、飼い主の視線を遮るように丸くなった。「ちょ、ちょっと!そこは源泉徴収票!」ふむ。だからこそ、守ってやらねばならぬ。 飼い主はため息をつきながら言う。「年末調整が終わらない……」吾輩は尻尾をゆっくり左右に振った。焦って書くと失敗する。それはトイレの砂かけと同じ理屈である。 ときおり飼い主 ...
吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 ある休日、飼い主がキャリーケースを取り出した。その瞬間、胸がざわつく。――動物病院か?――それとも爪切りの次は予防接種か? ところが飼い主は満面の笑みで言った。「今日はドライブだよ!」ドライブ……?どうやら、車で“どこかに行く”らしい。 出発してすぐ、車はゴトゴト、景色はぐるぐる。吾輩のひげが緊張でピンと立つ。しかし飼い主の声は落ち着いていた。「大丈夫、そばにいるからね」その一言が、エンジンよりも温かかった。 やがて、揺れにも慣れてきた。窓から差し込む風は、家の中では嗅いだ ...
吾輩は猫である ―猫の口述試験 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 今日、吾輩は試験会場なる場所に連れてこられた。どうやら「口述試験」なる難関に挑むらしい。――なぜ猫が?と聞きたいが、飼い主曰く「君ならできる」。根拠のない自信ほど恐ろしいものはない。 静かな部屋に案内され、試験官が三名、真剣な顔で座っている。「それでは、あなたの経験を聞かせてください」吾輩は思った。――経験とは、窓辺で日向ぼっこした回数のことか? まず聞かれたのは、「あなたが普段、どのようにリスクを管理していますか?」吾輩は胸を張って答えた。「見知らぬ紙袋には近づかない。窓 ...
吾輩は猫である ―猫の爪切り 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 今日も、家のどこかで“パチン”という音がした。これは恐怖の合図である。飼い主が爪切りを手に吾輩を探しているのだ。 吾輩はソファの下にすばやく潜り込む。ここは安全地帯。しかし、飼い主は甘くない。「そんなところに隠れたって、すぐ終わるよ〜」その声がやさしいほど、逆に怖いのだ。 ついに捕まった吾輩は、膝の上で“武装解除”されるように抱えられる。前足をそっと持ち上げられ、爪先が光に照らされる。飼い主が言う。「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるからね」 パチン。ひとつ音が響く。――痛くはない ...
吾輩は猫である ―猫と風呂 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 ある晩、飼い主が風呂場で歌をうたいながら湯を張っていた。「いい湯だな〜♪」湯気は白く、空気はほかほかしている。吾輩はその様子を戸口から観察していた。――風呂とは、人間がわざわざ温かい水に沈む奇妙な儀式である。 と、飼い主がこちらを見て言った。「一緒にあったまる?」冗談だと思ったが、次の瞬間、吾輩は抱き上げられ、湯船の上で“ぷらん”と宙に浮いた。 「ひっ!?」もちろん吾輩は全力で拒否した。足をばたつかせ、しっぽは膨らみ、魂の奥から「無理である!」という声が湧き上がった。 飼い ...
吾輩は猫である ―猫と火災 編―
吾輩は猫である。名はまだない。 その夜は、いつもより暖房の匂いが濃かった。飼い主が鍋を火にかけたまま、うとうとしてしまったのだろう。 最初に気づいたのは吾輩だった。鼻の奥を刺すような焦げ臭さ。部屋の隅で揺れるオレンジの影。――炎である。 吾輩は飼い主の布団に飛び乗り、顔を前足で叩くようにして起こした。「ん……どうしたの?」次の瞬間、飼い主も火の気配に気づき、目が一気に覚めた。 「火事だ!」その声は震えていた。だが、動きは素早かった。窓を開け、ブレーカーを落とし、吾輩をキャリーに入れて逃げ道を確保する。 外 ...









