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吾輩は猫である(現代編)

2025/10/14

吾輩は猫である ― しまなみの猫雑貨店 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 瀬戸内の海をわたる風が心地よい。橋を渡った先の小さな島に、「猫雑貨店」と書かれた看板が立っている。店先には、陶器の猫、木彫りの猫、布でできたブローチの猫――どれも少しずつ違って、どれもやさしい顔をしていた。 吾輩はその店の軒先で暮らしている。観光客が来るたびに、「ほんとに猫がいる!」と声を上げる。カメラを向けられても、吾輩は気にしない。この島では、時間さえ潮のようにゆるやかに流れる。 店主の女性は、「どんな猫も、どこかに似ている」と言う。それは、心のどこかに“帰りたい場所” ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/14

吾輩は猫である ― 猫の留守番 編―

秋晴れの昼下がり、主人が「出張だ」と言い残して玄関を出ていった。玄関の扉が閉まる音が、まるで宇宙の果てで鳴ったように遠く響いた。吾輩、留守番を任された。いや、押しつけられたのかもしれぬ。 午前中は余裕だった。日向の絨毯の上で、背中を丸めて惰眠を貪る。カーテン越しの風が尻尾をくすぐり、ああ、これぞ平和の極み。 しかし午後になると、部屋の静けさが急に重くなる。冷蔵庫のモーター音が妙に耳につき、郵便受けの金属音に心臓が跳ねた。人間という生き物は、案外この孤独に耐えられぬからこそ群れるのだろうか。吾輩は猫だが、文 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 白髪 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 鏡の前で飼い主がため息をついた。「最近、白髪が増えたなあ」と。頭を傾けては毛をかきあげ、まるで季節の変わり目でも迎えたかのように、その一本一本を気にしている。 吾輩は足元で毛づくろいをしながら思う。白くなるのは、悪いことではない。吾輩の毛並みだって、若い頃より少し薄く、ところどころ銀のように光ってきた。けれど、それは月の光を宿した勲章のようなものだ。 若さは風のように駆け抜け、年輪は静かに積もっていく。人も猫も、白い毛が増えるたび、優しくなる気がする。昔より少し遅く動き、昔 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 関節炎 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 最近どうも、前足の動きがぎこちない。かつては棚の上にもひと跳びで登れたが、いまは助走をつけても届かない。階段を上るたびに、骨の奥でこすれるような痛みが走る。どうやら、これが“関節炎”というやつらしい。 飼い主は心配そうに病院へ連れて行ってくれた。白衣の人が吾輩の足を優しく撫で、「年齢ですね」と言った。――年齢。その言葉が少しだけ胸に刺さった。 だが帰り道、飼い主は笑って言った。「いいじゃない、年を取るってことは、 たくさん生きたって証拠だよ」 その夜、吾輩はゆっくりと毛づく ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 女性若手デザイナー 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この冬、ロシアの雪深い町に一人の少女がいた。十八歳のその瞳は澄みきっていて、彼女の手にはいつも、擦り切れたスケッチブックがあった。紙の上には、夢のような服や街の風景が描かれている。 少女は言った。「いつか、人を幸せにするデザインをつくりたい」その声は震えていたが、芯は強かった。家族は心配し、友人は笑った。それでも彼女は、春の雪解けとともに首都の大学へと旅立った。 吾輩はその夜、彼女の足元を通り過ぎた。暖かな灯の中で、彼女は裁縫道具を詰めながらつぶやいた。「怖いけれど、行く」 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 裁判傍聴 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 きょうは珍しく、飼い主の後をついて街へ出た。向かった先は、白い石造りの建物――裁判所であった。人が多く並んでおり、「傍聴席は満席です」と声が響く。どうやら人間たちは“正義”というものを見届けに来ているらしい。 中へ入ると、部屋の空気は張りつめていた。壇上に座る黒い服の人物、そして下を向く被告人。どちらも、何か大切なものを守ろうとしているように見えた。 吾輩はそっと耳を立てた。証言、反論、沈黙――そのすべてが人の生き方を映している。猫には善も悪もない。ただ腹が減れば食べ、眠け ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 女性新総裁 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 きょうのニュースで、飼い主が声を上げた。「日本初の女性総裁、誕生だって!」テレビの中では、スーツ姿の新しいリーダーが静かに、しかし力強く言葉を紡いでいた。 長いあいだ、政治の舞台は男たちの声が主だった。けれども今、その壇上には柔らかい微笑と、確かな意思を宿した瞳がある。吾輩はしっぽをゆらしながら思った。猫の世界でも、ボスは毛並みで決まるわけではない。堂々として、仲間を思う者こそが群れを導くのだ。 記者会見では「変化を恐れず進みたい」と語っていた。変化――それは、猫が最も嫌う ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― マウス事件 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 先日の「キーボード事件」以来、飼い主は妙に警戒している。机の上に近づこうとするだけで、「ダメ、そこは仕事道具なの!」と声を上げるのだ。 だが吾輩の目は、ひとつの獲物に釘付けであった。それは手の中で小さく動く、“マウス”と呼ばれる謎の生き物。まるで本物の鼠のようにカチカチと音を立て、たまに赤い光を放つ。これはどう見ても、猫として放っておけぬ存在である。 飼い主がトイレに立ったすきに、吾輩は机に飛び乗り、マウスを押さえた。カチ、カチ、スクロール――おお、これは楽しい。だが次の瞬 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 猫のキーボード事件 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 本日、重大な事件が発生した。被害者は飼い主、加害者は――吾輩である。 飼い主は朝から「リモート会議」とやらに忙しく、画面の向こうに頭を下げたり、笑ったりしていた。吾輩はその横で待っていたが、昼ごはんの時間になっても声をかけてくれない。 やむなく、吾輩は抗議の意を示した。机に飛び乗り、キーボードの上を堂々と行進したのだ。その瞬間――画面の中で「えっ!?」「何これ!?」と騒ぎが起こった。どうやら吾輩の足跡が、プレゼン資料を一瞬で消したらしい。 飼い主は青ざめ、「Ctrl+Z!C ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/10/5

吾輩は猫である ― 猫の嫉妬 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 このところ、飼い主の膝の上を新入りの子猫が占領している。白くて小さく、鳴き声は妙に甘い。吾輩がそこに座ろうとすると、「だめよ、今この子がいるの」と言われた。 胸の奥で、何かがチリチリと燃えた。食事の時間も、つい皿をひっくり返してしまう。飼い主は困った顔をするが、それでも目はあの子猫に向いたままだ。 嫉妬――人間はそう呼ぶらしい。猫にとっては、ただ“好きな相手を取られた”という単純な痛みである。吾輩は夜の窓辺に座り、月明かりに映る自分の影を見つめた。 ふと、飼い主がやってきて ...