吾輩は猫である。名はまだない。 今日は元町の通りがひときわ賑やかだ。「チャーミングセール」とやらで、人間たちは大きな紙袋を抱え、目を輝かせて店々を渡り歩いている。 赤や青の値札が風に揺れ、「半額」「限定」の文字が並ぶ。吾輩には数字の意味はわからぬが、人間の尻尾――いや、歩みの速さを見るに、相当お得らしい。 ブランドの店先で試着する人々、カフェのテラスで戦利品を語る声。その足元を、吾輩はすり抜ける。時折、甘いワッフルの香りが漂い、鼻先がぴくりと反応する。 考えてみれば、猫にとっての「セール」とは、魚屋の軒先 ...