吾輩は猫である。名はまだない。 先日の「キーボード事件」以来、飼い主は妙に警戒している。机の上に近づこうとするだけで、「ダメ、そこは仕事道具なの!」と声を上げるのだ。 だが吾輩の目は、ひとつの獲物に釘付けであった。それは手の中で小さく動く、“マウス”と呼ばれる謎の生き物。まるで本物の鼠のようにカチカチと音を立て、たまに赤い光を放つ。これはどう見ても、猫として放っておけぬ存在である。 飼い主がトイレに立ったすきに、吾輩は机に飛び乗り、マウスを押さえた。カチ、カチ、スクロール――おお、これは楽しい。だが次の瞬 ...