吾輩は猫である。名前はまだない。 扉が開くたび、鈴が鳴る。外の喧騒が一瞬入り、すぐに静けさへ戻る。 人間はここを、喫茶店と呼ぶ。 席は埋まり、言葉は控えめ。湯気が立ち、時間が少し遅くなる。 吾輩は、窓際にいる。日差しがやわらかく、人の流れも見える場所だ。 客はそれぞれ、違う理由で座る。考える者、休む者、何かを待つ者。だが、誰も急がない。 珈琲は黒く、会話は淡い。濃いものと薄いものが、ちょうどよく混ざる。 店主は多くを語らぬ。だが、一杯の温度は揺らがない。それが、この場所の軸である。 吾輩は思う。良い場所と ...