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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/18

吾輩は猫である ―猫を猫と呼ぶ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 フランスの諺には、物を物として呼ぶことの大切さが、さりげなく込められている。飾らず、誇張せず、期待を背負わせない。 吾輩は思う。猫を猫と呼ぶとは、愛さぬことではない。支配せぬことだ。 人は名を足す。意味を盛る。役割を与え、物語を背負わせる。だが、猫は物語を欲しがらない。 猫は猫であり、それ以上でも以下でもない。そのままで十分なのだ。 フランス人は言う。「物は物として扱え」と。それは冷たさではない。敬意である。 吾輩が窓辺にいるとき、理由はない。意味もない。ただ、そこにいる。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/18

吾輩は猫である ―時計と猫 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 人間はしきりに時計を見る。進んでいるか、遅れているか、間に合うか、間に合わぬか。円盤の上を回る針に、気分まで預けているようだ。 吾輩は時計を見ない。正確な時刻を知らずとも、腹が減れば起き、眠くなれば眠る。それで一日が、きちんと終わる。 時計は便利である。だが、便利なものほど、人を追い立てる。人は時間を使っているつもりで、いつの間にか時間に使われている。 吾輩は窓辺で丸くなり、光の角度で午後を知る。時計より遅いが、間違えない。 考えるとは、急がぬことだ。生きるとは、測らぬこと ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―猫髭コレクター編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が床に落ちている細い白いものを拾い、そっと息を止めた。「……あった。」それは、吾輩の髭である。 猫の髭は、ただの毛ではない。距離を測り、風を読み、世界の輪郭を知るための道具だ。それを落とすということは、ほんの少し成長した証でもある。 飼い主はその髭を、小さな箱に入れた。「捨てられないんだよね。」そう言って、満足そうに頷く。 箱の中には、すでに何本かの髭が並んでいる。長さも、曲がり具合も、色も違う。――まるで、吾輩の人生の断片である。 吾輩は思う。なぜ人は、猫の ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―CAT48 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 最近、人間たちが口にする。「推しは誰?」「総選挙がさ……」どうやら大勢の中から、一匹を選び、応援する文化があるらしい。 もし猫にもそれがあるなら、CAT48という集団ができるだろう。四十八匹、それぞれ個性が違う。甘え上手、距離感重視、無言の圧、突然の膝乗り。 だが吾輩は思う。猫に“センター”は要らぬ。順位も、票数も、比較も、猫の世界にはなじまない。 なぜなら、猫は一対一で完結する。選ばれるのではなく、気づけばそこに居る。推されるのではなく、いつの間にか手を伸ばされている。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―愛玩動物飼養管理士 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が分厚い本を開いていた。図や文字が多く、どうやら簡単な読み物ではないらしい。「愛玩動物飼養管理士、勉強中なんだ。」 吾輩はその言葉を聞き、少しだけ背筋を伸ばした。“愛玩”とは、可愛がること。“管理”とは、守ること。なかなか責任の重い組み合わせである。 本には、食事、病気、行動、法律。かわいいだけでは済まされぬ事柄が、静かに並んでいる。吾輩は思う。知るとは、自由を増やすことではなく、無知による傷を減らすことなのだ。 飼い主は言った。「ちゃんと理解して、一緒に暮ら ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―猫目線カメラ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が床に小さな機械を置いた。「猫目線カメラ、試してみよう。」どうやら吾輩の首元に装着し、世界を“猫の高さ”で撮るらしい。 歩き出すと、人間の足がやけに大きい。椅子の脚は森の幹のようで、ソファの下は立派な洞穴だ。人間が見落としている通路が、この家にはいくつもある。 匂いが先に来る。画面には映らぬが、床の角、窓辺の風、昨日の記憶。猫目線とは、視界だけでなく、感覚の総和なのだ。 飼い主が映像を見て驚いた。「こんなとこ、通ってたんだ。」吾輩は思う。世界は変わっていない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―力の支配 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 人間の世界では、「力」がものを言う場面が多い。声の大きさ、数の多さ、金の重さ、肩書の硬さ。 それらが揃うと、正しさより先に、従わせる空気が生まれる。 吾輩はそれを、高い棚の上からよく見ている。 力で押さえつけると、一時は静かになる。だが、本当に静かなのは、納得ではなく、諦めだ。 猫の世界でも、力は存在する。大きな体、鋭い牙。だがそれだけでは、群れは保てない。 無駄に威嚇する猫は、やがて孤立する。力を持ちながら、使わぬ猫が、一番長く場所を守る。 飼い主がニュースを見て、ため息 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―横浜万博応援 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 港の風は、いつも少し先の話を運んでくる。今日はその風に、「万博」という言葉が混じっていた。どうやら人間たちは、未来を集める大きな催しを応援しているらしい。 横浜の街は、新しいものに慣れている。異国の匂いも、見慣れぬ建物も、いつの間にか景色の一部にしてきた。だから万博も、騒ぎ立てるというより、静かに背中を押す感じだ。 飼い主は言った。「横浜は、つなぐ役だよね。」海と陸、昔と今、人と人。猫から見ても、ここは交差点のような街である。 吾輩は思う。万博とは、派手な未来を見せる場では ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―いけおじ猫 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 若いころは、高いところに登り、無駄に走り、何にでも首を突っ込んでいた。だが今は違う。登る場所は選び、走る理由があるときだけ走る。 毛並みは少し落ち着き、動きは静かになった。だが、その分、場の空気がよく見える。これが“いけおじ”というものらしい。 吾輩はいちいち主張しない。鳴かずとも、視線ひとつで伝わる。甘えるときも、全面には出ない。さりげなく、膝の端を使う。 若い猫が騒いでいても、吾輩は距離を保つ。叱らない。羨ましがらない。ただ、「楽しそうだな」と思うだけだ。 飼い主が言う ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―レアアース 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 飼い主が難しい顔でニュースを見ていた。「レアアースが止まると、困るんだよな。」吾輩は首をかしげた。皿の中身が減るわけでも、暖房が止まるわけでもなさそうだが、人間にとっては大事らしい。 レアアース。名前は派手だが、姿は地味で、土の中にひっそりと眠っている。だが、それがなければ、画面も、電池も、静かに動く機械も成り立たぬという。 吾輩は思う。猫の世界にも、似たものがある。毎日の水、決まった時間、安心できる匂い。目立たぬが、欠ければすぐに不安になる。 人間は、便利になるほど、見え ...