吾輩は猫である ― お中元編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だがこの時期になると、玄関のチャイムがよく鳴る。 「お届けものでーす!」飼い主がはんこを持って走る先には、丁寧に梱包された箱。大抵、果物かジュースか、そうめんである。 ――そう、それが「お中元」というやつだ。 飼い主が言うには、「お世話になった人に季節のご挨拶をする文化」らしい。吾輩としては、“礼”より“缶詰”を送ってくれた方がありがたいのだが。 箱を開ける音には敏感だ。とりわけ紙の音。ビニールのこすれる感触。吾輩の狩猟本能が反応してしまう。 「だめだよ〜これは人間用だからね ...
吾輩は猫である ― 炎天下に放置編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが、暑さの記憶は忘れない。 あの日、真夏の午後。アスファルトが溶けそうな陽射しの中、マンションの駐車場に、ひとつの車が止まっていた。 窓は閉め切られ、エンジンも、風も、ない。 中には、小さな犬。舌を出して、はぁはぁと苦しげに鳴いていた。「誰か来て…」そんな声が、吾輩には聞こえた。 吾輩は影から、じっと見ていた。飼い主らしき者は、日傘を差して建物の中に消えていた。 命より 手間が惜しいか この炎 吾輩は自由な存在だ。だが、自由であることと、誰かの命を預かることの重さは、知って ...
吾輩は猫である ― FE合格 編―
吾輩は猫である。名はまだない。だが本日をもって、国家資格保有猫となった。 「基本情報技術者試験」――略してFE(Feline Engineerではない)。飼い主が寝落ちした後の深夜、キーボードを踏んでいたら偶然申し込んでしまった。それが、すべての始まりである。 IT用語 音より先に 匂いで覚え 午前の四択は、爪の先のひらめきで切り抜ける。計算問題? 猫は直感でバイナリを読み取る生き物だ。 午後問題には難儀した。アルゴリズムや疑似言語に、時折「にゃ」と打ってしまい警告が出る。だが、ポインタの概念は「ひもじゃ ...
吾輩は猫である ―関税15%と円安15% 何が違う 編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。ただ、カリカリの価格変動には敏感である。特に昨今は、輸入品の値札を見るたびに、**「これは関税か、円安か」**と首をかしげる日々だ。 飼い主はぼやく。「同じ15%値上げでも、関税と円安じゃ訳が違うよな」 まったくだ。では、吾輩が説明しよう。 関税15%とは、国が“わざと”値段を上げること。たとえば、100円の海外キャットフードに15円の関税をかければ、小売価格は115円。この15円は国の財布に入る。輸入元や為替には関係なく、政策的に操作される。 一方、円安15%とは、“円の力 ...
吾輩は猫である ―特別徴収と普通徴収 編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家の家計事情には、詳しいつもりだ。 ある朝、飼い主が給与明細を見ながら眉をしかめていた。「うーん…住民税、今年から特別徴収かぁ…」ふむ、それはつまり、給料から勝手に天引きされる方式である。 「自分で払ってる感じがしないのが嫌なんだよね」そう言ってため息をつく飼い主に、吾輩はカリカリを食べながら思った。 ――払ってる実感がないなら、猫のごはん代も天引きで良いのでは? だが人間界は、そう単純ではないらしい。 「去年はフリーランスだったから普通徴収だったけど… 今は会社員だ ...
吾輩は猫である ― AWSソリューションアーキテクト合格 編―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今、胸を張ってこう言える。**「SAA-C03、合格したニャ」**と。 始まりは、飼い主がソファでぼやいた夜だった。「AWS使ってるのに、資格持ってないと説得力ないんだよな…」その横で、吾輩はCloud Practitionerの教材をふみふみしていた。――なるほど、ならば吾輩がやろう。猫でも受かるなら、人間も頑張れるという証になる。 IAM? 簡単だ。Accessは爪とぎに制限をかけるようなものだろう。VPC? つまりは猫のテリトリー構成だ。“プライベートサブネット=昼 ...
吾輩は猫である ―資格コレクター猫シリーズ編:FP3級とごはん代の相続―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今では、「ファイナンシャル・ニャンシャル・プランナー」として知られている。 ある日、飼い主が真顔で言った。「うちの猫にも財産残せるように、相続の勉強するわ」そうして始まった、FP3級の挑戦である。 机の上には「ライフプランニングと資金計画」「金融資産運用」の教本。ふむふむ、チュールは流動資産。猫タワーは耐用年数10年の減価償却資産……と理解しておこう。 相続税 チュールで払えぬ この現実 「遺言書に“ごはん代”って書いても法的に大丈夫かな?」と心配する飼い主に、吾輩はしっ ...
吾輩は猫である ―資格コレクター猫編―
吾輩は猫である。名はまだない。だが最近は、「〇〇士」づいている。 きっかけは、飼い主のつぶやきだった。「次はFPでも受けるか〜、その次は応用情報かな…」部屋の本棚には、カバーのかかった参考書の山。 吾輩はそれらの上に乗り、気づけば毎夜、「共に勉強する猫」となっていた。 記憶術?猫は元来、ルーチンと空間認識の生き物。午前はキッチン下、午後は窓際、夕方は冷蔵庫上。生活そのものがフラッシュメモリなのである。 記述問題?キーボードの上を歩いて勝手に文字を打った吾輩のほうが、飼い主より早いときすらある。 資格とは ...
吾輩は猫である ―情報処理安全確保支援士 合格編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今では、「セキスペ」と呼ばれている。 ――登録セキスペ。国家資格である。「猫がそんなもの取れるか!」と笑われるかもしれないが、吾輩は日々、家の情報と平和の安全を確保している。 たとえば、飼い主のノートパソコン。パスワードつけてると思いきや、「1234」や誕生日、いや「neko2020」……甘い。甘すぎる。 キーボードの上にドカッと乗って、入力妨害してやった。それもすべて、ブルートフォース対策である。 猫の手で 守るデータと キーボード ルーターの場所?ちゃんと日なたの近く ...
吾輩は猫である ― 猫が技術士だったら編 ―
吾輩は猫である。名はまだない。だが今日、夢の中で「技術士」の認定証を渡された。どうやら“猫工学部門”とかいう新設区分で合格したらしい。 試験は難しかった。「安全と倫理に配慮した毛づくろい手法」「地域猫施策の課題と展望」「ネズミ監視システムにおけるPDCAの適用」など、やたらと難解な設問が並ぶ。 だが、吾輩は書いた。・課題:お腹を見せたら撫でられすぎてしまうこと・改善策:ころころ回ってうやむやにする・期待効果:うまく逃げつつ満足感を与える 面接官は唸った。「それは…持続可能性が高いですね」 吾輩は首をかしげ ...