吾輩は猫である。名はまだない。 きょうは珍しく、飼い主の後をついて街へ出た。向かった先は、白い石造りの建物――裁判所であった。人が多く並んでおり、「傍聴席は満席です」と声が響く。どうやら人間たちは“正義”というものを見届けに来ているらしい。 中へ入ると、部屋の空気は張りつめていた。壇上に座る黒い服の人物、そして下を向く被告人。どちらも、何か大切なものを守ろうとしているように見えた。 吾輩はそっと耳を立てた。証言、反論、沈黙――そのすべてが人の生き方を映している。猫には善も悪もない。ただ腹が減れば食べ、眠け ...