吾輩は猫である。名はまだない。だが、今日は名を呼ばれることもない日である。 8月15日、終戦記念日。蝉の声がけたたましく、だが町は、いつもより静かである。 飼い主の祖母は朝から仏壇に向かい、線香を焚き、ラジオをつける。「黙祷」――その声に、吾輩も動きを止める。 昔、祖母が言った。「この家には、戻らなかった誰かがいた」写真も、名前も、声ももう知らぬけれど、その“誰か”を毎年思い出す日が今日なのだと。 吾輩の祖先もまた、焼け野原を彷徨ったかもしれぬ。防空壕に潜り、疎開先で新しい子猫を産み、人とともに、生き延び ...