吾輩は猫である。名はまだない。この三か月、同じホテルで暮らした仲間がいた。窓辺で日向ぼっこを分け合い、夜は隣のケージ越しに「にゃあ」と声を掛け合った。知らない場所での心細さも、その存在があったから乗り越えられた。 だが今日、彼は迎えに来た飼い主の腕に抱かれ、自宅へ帰っていった。職員が「よかったね」と微笑む。確かに、それは喜ばしいこと。けれど胸の奥が少しだけぽっかりと空いた。 葵が言った。「お別れは寂しいけれど、また会えるかもしれないよ」獅子丸はしっぽを振って、「いつか遊びに行けばいいじゃん!」と元気づける ...