吾輩は猫である。名前はまだない。 空気が、やわらいでいる。冷たさは残るが、どこか丸い。 人間はこれを、春の陽気と呼ぶ。 陽は高くなり、風は軽くなる。同じ部屋でも、居場所が少し変わる。 冬に好んだ場所が、少し暑い。夏に避けた場所が、ちょうどよい。 吾輩は、光の中で伸びる。無理なく、ゆっくりと。 急ぐ必要が、なくなる。 人間は、新しいことを始める。動き出し、変わろうとする。だが、春はそれだけではない。 整える季節だ。 硬くなったものを、少し緩め、止まっていたものを、静かに動かす。 無理はしない。勢いでもない。 ...