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吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ―日本一高い温泉 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 山の空気は薄く、風は澄みきっている。飼い主が背負うリュックの中で、吾輩は小さく丸まっていた。今日の目的地は「日本一高い温泉」――空に一番近い湯だという。 山小屋を越え、岩を渡り、ようやくたどり着いたその場所は、まるで雲の中に浮かぶような静けさだった。湯けむりが白く立ちのぼり、あたりは硫黄の香りに包まれている。 飼い主が足を湯に浸す。「あったかいねぇ」と微笑んだ。吾輩はその膝の上にのり、蒸気のぬくもりを毛並みに感じた。風は冷たく、湯はやさしい。この対照が、まるで人生そのものの ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 猫ハーネス 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が新しい首輪を持ってきた。と思いきや、それは胴に巻きつく奇妙な布の帯――「ハーネス」というらしい。 「これでお散歩しようね」と飼い主は笑う。ふむ、吾輩を束ねて連れ出すとは、なかなか大胆な宣言である。しかし、興味が勝った。窓の向こうの世界を、ずっと眺めるだけでは飽き足らなかったのだ。 カチリ。金具の音とともに扉が開く。外の空気が胸に飛び込んできた。土の匂い、風の音、鳥の声――それはすべて新鮮で、少しだけ怖くて、でも確かに生きていた。 吾輩は一歩、また一歩と進む。 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 新嘗祭編―

吾輩は猫である。名はまだない。 庭の柿は橙に色づき、稲穂は金に波打っていた。飼い主が夕暮れに小さな俵を手に言った。「今日は新嘗祭の日だよ」 その声はいつもより柔らかく、まるで誰かに語りかけるようだった。どうやら、人はこの日に“新しい米”を神に供え、収穫の恵みに感謝するらしい。 吾輩はちゃぶ台の下から見ていた。土の香りがまだ残る米を炊き、湯気の向こうに小さな湯呑を並べる。それだけのことが、なぜだかとても荘厳に見えた。 人は忘れがちだが、生きるとは“いただくこと”の連なりである。風の運ぶ花粉、雨のしみた大地、 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 技術士合格(二次試験)編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この数か月、飼い主はずっと机にかじりついていた。紙の束、蛍光ペン、深夜のコーヒー。時々うなり声を上げ、「リスク分析」「要件定義」など人間には重要らしい言葉をぶつぶつ呟いていた。 吾輩は、その足元で静かに見守っていた。眠気と戦う背中に、小さく寄り添うのが吾輩の仕事である。 そして今日――ポストの前で飼い主が封筒を開けた瞬間、「やった……合格だ!」と声を上げた。その顔は、夜明けのように輝いていた。 吾輩は思った。“技術士”とは、ただ頭の良い者の称号ではない。苦しい日々を超えて、 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ―猫好きさん大集合 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今日、商店街の広場で「猫好きさん大集合」のイベントが開かれた。飼い主が嬉しそうに吾輩をキャリーに入れ、「今日は君が主役だよ」と言った。――ふむ、主役ならば堂々と行こう。 広場には、実に多くの猫と人間。長毛、短毛、まん丸、スリム、鳴き声も毛並みも、それぞれに個性が光る。けれど、みんなの目がやさしい。「かわいいね」「ふわふわだね」――その言葉が風にのって、まるで春の花びらのように舞っていた。 猫を抱く手、カメラを構える目、笑う声、子どもの驚き。どれも吾輩にとっては、“人の心がほ ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ―猫の靴下 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この家には、吾輩の天敵がいる。――それは“洗濯機”である。ガタガタと音を立て、ときどき飼い主の靴下を一枚だけ飲み込むのだ。 ある朝、飼い主が騒いでいた。「また片方がない!」どうやら靴下の片割れが行方不明らしい。吾輩はしらばくれた顔で、ベッドの下に隠した“宝物”をそっと見た。ふわふわで、ちょうど噛みごたえがよい。夜な夜な枕元へ持っていく、吾輩のお気に入りだ。 だが、飼い主が泣きそうな顔で探しているのを見て、少し胸が痛んだ。――愛とは、靴下の片方を分け合うことなのかもしれぬ。 ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 猫のいる暮らし 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 朝、飼い主の目覚ましが鳴るより少し早く、吾輩はベッドの上で伸びをする。「おはよう」の代わりに、軽く尻尾で飼い主の顔をなでる。これが、我が家の一日のはじまりである。 台所では、トーストの香り。吾輩は足元をうろうろしながら、パンのかけらが落ちてこぬかと見張る。飼い主は笑いながら言う。「落ちないよ、今日はちゃんと食べるからね」――ふむ、まるで小さな約束のようだ。 昼は陽だまり、夜はひざの上。言葉は交わさずとも、互いの呼吸が重なるだけで、部屋の空気がやわらかくなる。猫のいる暮らしと ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― 猫コタツ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 寒い朝。部屋の隅に鎮座する赤い城――そう、こたつである。飼い主がスイッチを入れると、じわりと足元から光がにじみ、世界がゆっくりと溶けていく。 吾輩はためらうことなく潜り込む。中は別天地。まるで太陽の腹の中にいるようだ。飼い主の足先が動くたび、毛がふわりと触れ、眠気が波のように押し寄せる。 こたつの中では、時間の概念が曖昧になる。昼も夜も、ただぬくもりに包まれ、夢とうたた寝の境が溶けていく。人はこれを「怠惰」と呼ぶが、吾輩に言わせれば「哲学」である。動かずして世界を感じる―― ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/8

吾輩は猫である ― おこじょ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 雪が降り積もる山あいの村。白銀の世界を歩く吾輩の前に、小さな影がぴょんと跳ねた。 それは――おこじょ。白い毛並みに黒い尻尾、雪の中をすばしこく走る小さな生き物である。 「寒くないのか?」と吾輩が声をかけると、おこじょは振り向いてにやりと笑った。「雪の中こそ、わたしの道。足跡が風になるんだ」その言葉に、吾輩は舌を巻いた。人も猫も寒さを避けて家にこもるが、おこじょは冬を生きる達人なのだ。 夜になると、山は静まり返る。吾輩は屋根の上で星を眺め、おこじょは雪穴の中で丸くなる。それぞ ...

吾輩は猫である(現代編)

2025/11/4

吾輩は猫である ― 満天の星空 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 夜。飼い主が寝静まったあと、吾輩はそっと窓辺にのぼった。雲ひとつない空に、星が無数に散りばめられている。 まるで誰かが黒い布に針で小さな穴をあけ、そこから光をこぼしたようだ。 遠くの山も街も眠っている。けれど空だけは、何千年も昔から目を覚ましたままだ。 吾輩は思う。あの光は、今も届き続けている。何光年も前に消えた星の光が、こうして吾輩の瞳に映るのだ。――不思議なことだ。小さな命が、宇宙の果てとつながっている。 流れ星がひとすじ、夜を切り裂いた。願いごとをする間もなく消えたが ...